コラム

世界にアピールする岸田首相のグリーン・トランスフォーメーション(GX)、なぜ評価が低いのか?

2023年12月02日(土)19時47分
岸田文雄首相

COP28の本会議場で演説の順番を待つ岸田首相(筆者撮影)

<世界初の「国によるトランジション・ボンド」を発行するなどGXを加速させようとする日本だが、否定的な声も上がっている>

[ドバイ発]G7(主要7カ国)の議長国を務める岸田文雄首相は12月1日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に出席し「日本は2030年度に46%減、さらに50%の高みに向け挑戦を続けている。すでに約20%を削減しており、着実に進んでいる」と演説した。

日本はGX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法に基づき成長志向型カーボンプライシング構想を進めている。来年には国際認証を受けて世界初の国によるトランジション・ボンドを発行する。排出削減、エネルギーの安定供給、経済成長の3つを同時に実現するGXを加速させる戦略だ。アジアゼロエミッション共同体の首脳会合も初開催する。

福島原発事故で原子力への拒絶反応が根強く残る中、岸田首相は「徹底した省エネ、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の活用を通じたクリーンエネルギーの最大限の導入を図る。私たちには太陽光の導入量が世界第3位という実績がある」と世界で再エネ容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍にするCOP28議長国UAEの目標に賛同した。

政府や産業界から独立した環境エネルギー政策研究所によると、昨年の全発電電力量における自然エネルギーの割合は22.7%。化石燃料による火力発電は72.4%と前年の71.7%から増加した。原子力発電は4.8%となり、前年の5.9%から減少した。欧州では自然エネルギーの割合が40%を超える国が多く、欧州連合(EU)の加盟国平均でも38.4%に達している。

「石炭火力については各国の事情に応じて」

化石燃料依存に環境団体から批判の目が向けられる中、岸田首相は「排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所については各国の事情に応じたネットゼロへの道筋の中で取り組まれるべきだ。日本も自身の道筋に沿い、エネルギーの安定供給を確保しつつ排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく」と強調した。

演説は日本語で行われたため、会場の拍手はまばらだった。昨年、世界の温室効果ガスの排出量は過去最大を記録し、今年も異常気象が相次ぐ。9月に公表された第 1 回 グローバルストックテイク(パリ協定の目標達成に向け各国が温室効果ガス排出量の削減目標を評価する仕組み)報告書では世界は1.5度目標と整合する道筋から外れているとの警告が発せられた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story