コラム

世界にアピールする岸田首相のグリーン・トランスフォーメーション(GX)、なぜ評価が低いのか?

2023年12月02日(土)19時47分

COP28で演説する岸田首相

岸田首相の演説への反応は今ひとつだった(同)

地球環境市民会議(CASA)の早川光俊専務理事は「岸田首相のスピーチはまったく評価できない。地球沸騰化や、瀕死の状態といわれる1.5度目標への危機感がない。石炭火力についても石炭火力自体の廃止には言及しなかった。30年までの対策が決定的に重要だとの認識に欠けていると言わざるをえない」と厳しい。

FoE Japanの髙橋英恵氏は「『排出削減対策が講じられていない新規の国内の石炭火力の建設をやめる』との宣言は非常に周回遅れの発言と言わざるを得ない。日本は国内にあるすべての石炭火力発電所を段階的に早急に廃止するための明確なスケジュールを策定するべきだ。原子力にも頼るべきではない」と強調する。

人生の大半を環境問題に費やすチャールズ国王

日本国憲法前文で「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」と宣言した高い志はいったいどこに行ったのか。一方、昨年はエジプトのシャルム・エル・シェイクで開かれたCOP27は成長至上主義者のリズ・トラス英首相(当時)から出席しないよう釘を刺されたチャールズ国王だが、今年はCOP28への出席が叶った。

長年にわたる環境問題の活動家として知られるチャールズ国王は自国のスコットランドで開催されたCOP26の開会式で「世界の意思決定者が貴重な地球を救い、危機に瀕した若者の未来を救うために力を合わせられるよう、違いを克服する現実的な方法を見出すことを強く求める」と呼びかけ、喝采を浴びた。

COP28でチャールズ国王は「私は地球温暖化、気候変動、生物多様性の損失など人類が直面する存亡の危機を警告することに人生の大半を費やしてきた。UAEが誕生して数十年の間に大気中の二酸化炭素は30%増え、メタンガスは40%近く増加している。グローバルストックテイク報告書が示すように私たちは軌道から大きく外れている」という。

「私は英連邦内外で気候変動によって生活と生計が破綻し、度重なる衝撃に耐えられなくなった無数の地域社会を見てきた。バヌアツやドミニカのような脆弱な島国ではサイクロンが繰り返し襲い、最も脆弱な被害者の犠牲が増大している。インド、バングラデシュ、パキスタンは未曾有の洪水に見舞われ、東アフリカは数十年にわたる干ばつに苦しんでいる」

英国の温暖化対策を遅らせるEU強硬離脱派リバタリアン

トラス前首相の背後には英与党・保守党内の欧州連合(EU)強硬離脱派リバタリアンが蠢いている。気候変動では「負の外部性(経済活動が第三者に有害な影響を与えること)」が発生するため、規制という政府の介入が不可欠になる。リバタリアンはこれが我慢ならない。彼らが主張する市場原理主義を貫けば英国の温暖化対策は大幅に後退しかねない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通

ワールド

米、ICCのイスラエル首相らへの逮捕状を「根本的に

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story