コラム

彼女こそ米国の光...テイラー・スウィフトをブリトニーと間違えたのは、バイデンの致命傷になりかねない

2023年11月28日(火)18時28分

ロンドン暮らしの筆者は恥ずかしながら、この現象に全く反応できずにいる。もうすぐ62歳という年齢も関係しているのかもしれない。

テイラーの魅力は幅広いリスナーに共感を広げる音楽的才能だという。カントリーミュージックでキャリアを始め、ポップスやインディーズに移行し、常に「旬」であり続ける。愛や失恋、自己成長をテーマにした作品が多く、音楽を通してストーリーをファンに語りかける。テイラーを崇拝する熱狂的ファンは「スウィフティーズ」と呼ばれている。

ソーシャルメディアで頻繁にファンと関わり、自分の人生や考えを共有する。アーティストの権利や女性のエンパワーメントを主張し、若い女性にとっては親しみを覚えるロールモデルだ。テイラーのテーマやストーリーテリングは文化的な経験や価値観を共有しているため、米国の聴衆により強く響く。カルト的に見えるテイラー現象は現代米国の一断面と言える。

「テイラー・スウィフトこそ今年の人だ」

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのペギー・ヌーナン氏はコラム(11月22日付)で「テイラー・スウィフトに感謝しよう。彼女は行く先々に喜びと仕事、自己成長を運んでくる」と分析する。「テイラー・スウィフトこそパーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)だ。彼女は23年、米国で起きた最高の出来事だ」

「彼女が今年やったことは、ある種壮大な米国の物語だ。彼女のツアーは全米で観客動員数と興行収入の記録を塗り替えた。訪れるすべての都市の経済を変えた。今秋、彼女のコンサート来場者が各会場周辺で消費する金額はスーパーボウルに匹敵するが、それが5カ月間にわたって20カ所、53の異なる夜に起こったと米国旅行協会は報告している」という。

テイラーは衣装係、大道具方、音響技術者、バックダンサーに計5500万ドル、トラック運転手に各10万ドルのボーナスを支給した。米ブルームバーグによると、最初の53回のコンサートで米国の国内総生産(GDP)は推定43億ドル増加した。「7月にシアトルの下町で演奏した時、スタジアムはファンの足踏みでマグニチュード2.3を記録した」(ヌーナン氏)

「彼女を褒めようとする人々は、彼女がエルビスかビートルズかと尋ねるが、それは間違った質問だ。テイラー・スウィフトは彼女自身のカテゴリーなのだ。彼女は自分自身をストーリーテラーとして見ていると言う。別れ、小さな勝利、裏切り、過ち。彼女の観客との特別な絆は17年もの間、人生を共に歩み、経験し、語り合ってきた。それは関係なのだ」(同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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