コラム

バイデン米大統領のセンチメンタルジャーニー アイルランド帰郷に込められた意味

2023年04月13日(木)18時51分
ジョー・バイデン米大統領

ベルファストで演説するジョー・バイデン米大統領(4月12日) Kevin Lamarque-Reuters

<かつてバイデンはルーツであるアイルランドについて「私の魂に刻まれる」と記したが、今回の訪問には「帰郷」以上の意味と狙いがある>

[ロンドン]3600人超の犠牲者を出したカトリック系住民とプロテスタント系住民の北アイルランド紛争を終わらせた「ベルファスト合意」から25年を迎えたのに合わせ、アイルランドにルーツを持つジョー・バイデン米大統領が11~14日、ベルファストとアイルランドの「故郷」を訪問する。2011年にはバラク・オバマ大統領(当時)も同様の旅を行っている。

バイデン氏は米大統領専用機に乗り込む前「訪問の優先課題は(英・北アイルランドとアイルランドの間に目に見える国境を復活させない)ベルファスト合意と『ウィンザー・フレームワーク』を維持し、平和を保つことだ。成功を祈っていてほしい」と話した。バイデン政権はすべてのコミュニティーの利益のため北アイルランド経済を支援する。

自らを「ミドルクラス・ジョー」と呼ぶバイデン氏は米北東部ペンシルベニア州の工場労働者らが暮らす小さな街で生まれ、アイルランド系カトリックの中流家庭で育った。父親は中古車販売店で働くセールスマン。バイデン氏の曽祖父は1850年、約100万人の死者を出したジャガイモ飢饉(ききん)のため、アイルランドから米ニューヨーク州に移住した。

飢饉で200万人がアイルランドを脱出したとみられている。バイデン氏は2016年、アイルランドを訪問する前「ペンシルベニアは私の心に刻まれる。しかしアイルランドは私の魂に刻まれる」と寄稿したことがある。アイルランドのルーツに誇りを持ち、家族の歴史が自分の政治的キャリアや世界観を形成してきたことにしばしば言及している。

北アイルランド紛争

祖父の言葉やアイルランドの詩を引用することもたびたびある。「忘れるな、お前の血の最高の一滴はアイルランド人だ」(祖父の言葉)、「しかし、その時、人生に一度、待ちに待った正義の潮流が立ち上がり、希望と歴史が韻を踏むことがある」(アイルランドの詩人シェイマス・ヒーニー)

バイデン氏が愛する第二の祖国アイルランドは歴史的に英国の植民地支配に苦しめられてきた。その傷は、英国から分離してアイルランドとの統一を唱えるカトリック系住民と、英国との統合維持を求めるプロテスタント系住民が血で血を洗う抗争を繰り広げた北アイルランド紛争として疼き続ける。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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