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物価高の今こそ注目すべき「食材」...鹿肉が「生活費」「生態系」2つの危機を克服する
Moonstone Images-iStock
<イギリスでは鹿の天敵はもはや人間だけ。生活費の危機と鹿の過剰繁殖の両方を解決するため、フードバンクでの鹿肉の提供も計画される>
[ロンドン]「この鹿肉は上手く仕上がっています。体毛がついたまま冷蔵庫に入れ、脚を吊るして2週間熟成させます。こうすることで筋肉が緩んで肉が柔らかくなり、風味も増す。野生動物の旨味が出るんです。強い風味のラム肉とも違います。より多くの人がもっと鹿肉を食べるべきだと思います」
ロンドンの繁華街ソーホーにある「サセックス・バー&レストラン」の厨房でオリバー・グラッドウィンさんはテーブルの上にのせられた1頭の鹿をさばきながら説明した。「一緒に育ったものを使って料理します。森の野生ニンニク、森の中を跳ね回っていた鹿の肉を使います。この『結婚』は田舎で自然に起こることです。私たちはその恵みを享受するだけです」
オリバーさんは肉切りナイフで手際よく鹿を解体していく。大腿骨と脊椎骨を結ぶ一対の棒状で、脂肪がほとんどない筋肉(フィレ)を取り出した。肉の部位の中で最も運動をしていないため、とても柔らかい。1頭の鹿から取り出せるフィレはたった2柵だ。「牛でもフィレは12切れしかとれません。牛も鹿も全身からフィレのとれる割合は決まっているんです」
「バーガー用の肉はすべての部位が混ざっていて、フィレを使った料理より持続可能性があります」とオリバーさんは教えてくれた。今日の特別メニューは、鹿のフィレを使った英国料理のパイ包み焼き「ベニソン・ウェリントン」だ。鹿が育った森の野草、キノコ、ニンニクと一緒に鹿のフィレをパイ生地で包み込む。
パンデミックが変えた英国の生態系
オーブンに20分近く放り込むと、外側のパイ生地が香ばしそうな色に焼けて「ベニソン・ウェリントン」の出来上がり。鹿の骨を煮込んで野生のガーリックバターを溶かしたソースをかけて食べると、鹿のフィレが口の中でとろけていく。ラム肉のような臭みもなく、淡白な清々しい森の香りが舌の上で広がっていく。
英国は「アニマル・ライツ(動物の権利)」に厳しく、2006年動物福祉法ですべての脊椎動物の虐待を禁止している。野生鹿を殺して、その肉を食べても英国の動物愛護団体は怒鳴り込んでこないのか。一昔前までは野生動物の肉を売る店に動物愛護団体のメンバーが押しかけて抗議する記事を「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙でよく見かけた。しかし...。