コラム

物価高の今こそ注目すべき「食材」...鹿肉が「生活費」「生態系」2つの危機を克服する

2023年04月07日(金)18時19分

新型コロナウイルスによるパンデミックは自然界に悪影響を及ぼした。50年前は45万頭だった英国の野生鹿はクマやオオカミ、オオヤマネコなど天敵がいなくなったため毎年5~6月に約30%増え、200万頭に。2020年のロックダウン(都市封鎖)以降、レストランやパブ、バーでの消費が減って野生鹿の生息数は増え、今年末には240万頭に膨れ上がる恐れがある。

英国では1000年前より多くの野生鹿が生息している。鹿が森林に最もダメージを与えるのは他にあまり食べ物がない冬場だ。鹿の天敵は人間しかいなくなった。このため消費者の需要を高め、生態系と生物多様性を保護するため、英国では全国規模の野生鹿肉作業部会が立ち上げられた。

「野生の鹿は家畜よりもずっと健康的な動物です」

「レストランやパブで鹿肉を食べることはあっても、スーパーでは手に入りません。野生鹿が増えたのはそれが大きいのかもしれません。田舎では自然が回復しました。天敵のいない鹿は減らず、増える一方です。鹿が激増し、鹿肉の価格は下がっています。100年前には世界大戦があり、鹿を捕食するオオカミやオオヤマネコがいましたから」とオリバーさん。

230407kmr_ube01.jpg

出来上がった「ベニソン・ウェリントン」に特製ソースをかけるオリバーさん(筆者撮影)

オリバーさんは鹿肉と牛肉に違いについて「鹿は野生動物なので、その肉はとてもさっぱりしています。食べすぎても特別なダイエットは必要ありません。夏には農家の小麦やトウモロコシを食べるので嫌われています。冬は森のベリーやキノコ類を食べています。家畜よりもずっと健康的な動物です。そのため脂肪が少なく、味も良いのです」と話す。

鹿肉の在庫が増え、レストランやパブが仕入れやすくなった。精肉技術を向上させ、野生の食材を使用する絶好の機会だ。牛肉のようにインフレに見舞われることもない。10%を超えるインフレで飼料のコストが上がり、トラクターを動かすためのディーゼル燃料も高い。しかし鹿は自然界に生息しているため、コストプッシュ型のインフレを心配する必要はない。

「レストラン経営者としてビジネスとして私たちは利幅を守り、メニューの価格を抑えることでインフレに対抗しなければなりません。そのためには鹿肉が最適なのです。鹿肉を食べれば食べるほど、鹿肉をもっと美味しく料理できるようになるはずです。野生の鹿肉は二酸化炭素を大量に吐き出す方法で飼育されている家畜の肉とは違います」(オリバーさん)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story