コラム

コロナの教訓「バイオテロにワクチン備蓄で備えよ」 英健康安全保障専門家が指摘

2023年02月08日(水)20時42分
新型コロナウイルス(イメージ画像)

wildpixel-iStock

<新型コロナについてはウイルスの起源を含めていまだ不明なことが多く残されているが、将来に向けて得られた教訓も多くある>

[ロンドン]22年間、世界保健機関(WHO)で働いた経験を持つロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)感染症疫学教授で英王立国際問題研究所(チャタムハウス)グローバル健康安全保障センター長のデービット・ヘイマン氏が欧州ジャーナリスト協会(AEJ)で記者会見し、中国のゼロコロナ政策撤廃による感染拡大やバイオテロについて語った。

英医療系調査会社エアフィニティは独自のモデリングに基づき、2月7日時点で中国における1日当たりのコロナ新規感染者を275万人、死者を2万7000人と推計。ゼロコロナ政策を転換した昨年12月以降の累積感染者数は1億8100万人、累積死者数は130万人とみる。旧正月の祝賀行事のため旅行する人々の影響で農村部でより急速に感染が拡大している。

230208kmr_cvb01.jpg

中国のコロナ感染拡大見通し。新しい予測では2つのピークが接近している(エアフィニティの発表資料より)

ヘイマン氏は「コロナウイルスはかなり変異しており、以前より重症化しにくくなった。感染力は高まったが、重症化例は減った。中国も香港もゼロコロナ政策をとった。香港はその後、政策を緩和したが、高齢者へのワクチン接種が十分ではなく、死亡する高齢者が大量に出た。その後、中国も撤廃したが、感染状況を正直に報告していない」と危惧する。

「1月中旬に6万人死亡が報告されているが、非常に少ない数字だ。中国ではワクチン接種が人口全体に行き届いていない。中国はすべての情報をWHOと共有していないため、ワクチンの重症化に対する予防効果が低いのではないかと疑っている人も多い。それが接種率の低さにつながっている可能性がある」

コロナ危機が残した2つの教訓

230208kmr_cvb02.JPG

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のデービット・ヘイマン教授(筆者撮影)

中国で新たな変異株が発生する可能性について「われわれは病気の深刻さが増したかどうか検出する優れたシステムを備えているので心配することはない。ワクチンも変異に合わせて6カ月以内に修正でき、生産量を増やすことができる。いま大切なのは、どこかで深刻な発生があった場合に調査し、感染を遮断できるようにすることだ」と助言する。

新型コロナウイルスの起源についてヘイマン氏は「私は2003年にWHOにいたが、SARS(重症急性呼吸器症候群)が発生していた。動物市場が発生源であることを示す決定的な証拠があった。動物もウイルスに感染していたし、市場労働者や地域住民にも抗体が見られた。しかし今回ウイルスがどこから来たのかを示す証拠がない」と根拠なき憶測に釘を刺した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story