コラム

崖っぷちに追い込まれる英国の自動車産業が巻き込まれた、アメリカ対EU「緑の貿易戦争」

2023年01月26日(木)18時55分

ホーズ氏は筆者に「トヨタはPHEVとハイブリッド車に投資してきた。投資するなら少なくとも6~7年のリターンは欲しい。トヨタは今後15年の生産計画を立てるため、30~35年の間に販売が許可されるのか知る必要がある。カローラはトヨタとハイブリッド技術のシンボル。販売できなくなるなら将来の投資に影響が出るのは否定できない」と指摘する。

「トヨタが次に英国で何を生産するのか分からないが、おそらくハイブリッド車だろう。トヨタはBEVの生産にも投資している。英政府はネットゼロへの移行が生産に与える影響を警戒しているが、トヨタや日産自動車、ジャガー・ランドローバー(JLR)が投資できるよう英国を競争力のある国にしなければならない」と強調する。

トヨタが工場を閉鎖すれば英国の景気後退は不可避

昨秋、筆者は英与党・保守党年次大会を取材した。EVのイベントではトヨタのハイブリッド車への風当たりは強かった。自動車ジャーナリスト、クエンティン・ウィルソン氏は「トヨタは市場から遅れていることを自覚している。水素で走るクルマ、MIRAI(燃料電池自動車)も市場から遅れてしまった。電動化戦略がまだ十分にできていないからだ」と言った。

ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格は高騰し、インフレが高進。エネルギー安全保障への懸念も強まった。脱石炭の旗を振ってきた英国で昨年12月、30年ぶりに新たな炭鉱開発が承認されたのには呆れた。 EV化を急ぎ過ぎれば10万台以上を生産するトヨタ工場も閉鎖し、英国の景気後退はさらに深まる恐れがある。

EVはバッテリーがなければ作れない。欧州連合(EU)は25年にバッテリー市場は年2500億ユーロ(約35兆3000億円)に成長すると見込む。EU加盟国全体で111件の産業用バッテリープロジェクトが走り、約20のギガファクトリーが計画される(英BBC放送によると、35工場が計画・建設中)。30年までに年最大1100万台分のEV用バッテリーを生産する。

昨年1月、ボリス・ジョンソン英首相(当時)は「EV用バッテリーのパイオニア、ブリティッシュボルトが英イングランド北東部ノーサンバーランドにギガファクトリーを建設する。英国の産業の中心地で数千もの雇用を創出し、緑の産業革命の一環としてEV生産を後押しする」とぶち上げたものの、自堕落なスキャンダルで自滅した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story