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「脱化石燃料」は大きく後退...いま必要なこととは? 元国連大使・星野俊也氏が見たCOP27
熱波、豪雨、洪水、干ばつといった極端現象を含む異常気象は、目先の短期的な利益をはるかに上回る巨大なセットバックにつながり、尊い命も奪います。やはり、多くの苦労を伴っても、早急かつ大規模に再生可能エネルギーへの転換に向けて大きな決断をする動きが不可欠です。逆風にもかかわらず気候変動対策を積極的に進める人々や企業がいます。
そうした企業はESG(環境・社会・企業統治)の観点から市場や投資家の高い評価を受け、先行者利益を得るほか、今後も業界で大きな影響力を持つようになります。多くのビジネスリーダーが、あの時決断しておけば良かったなどと後悔することのないように今からビジネスモデルの転換に着手することを楽観論と期待を込めて考えたいと思います。
──産油国の中東諸国は太陽光発電など、どれだけ本気で気候変動対策に取り組んでいるのでしょう。
星野 気候変動対策のためのエネルギー転換は産油国にとっては自己否定になりかねませんが、化石燃料の地球環境への影響、脱炭素化の世界的なトレンド、そしていつかは枯渇する化石燃料の将来を考えれば、先見的な目を持っている指導者が「ポスト石油」の多様な道を模索することは自然なことです。
COP27 で産油国のパビリオンが軒並み革新的な技術でエネルギー転換を進め、再生可能エネルギーでも先手を打って引き続き存在感を高めようしている様子がうかがわれました。次回UAE(アラブ首長国連邦)でのCOP28に向けて、さらに大きな展開が見込まれるのではないでしょうか。
──経済や生活の電動化はいつごろ実現されるのでしょう。
星野 われわれの本気度が試されています。いつごろ実現されるかを問うのではなく、2050年のネットゼロからバックキャスト(逆算)して、今から何をどうすれば期限内に実現が可能かを考えるという思考方向の転換も求められています。最もいけないのはそんな目標の達成は絶対に無理だと早々に諦めることです。
脱炭素化は実現できるかどうかではなく、実現させないと地球や人類の未来に悲惨な結果を招くことは想定内になっています。今が未来の歴史を決める分岐点だということを改めて認識し、国も自治体もビジネスも市民社会も個人も、みな本気で連携し、脱炭素社会実現に向けた大きなうねりを今から作っていくことが本当に大切です。
目標は明確なので、あとは行動と実践があるのみなのです。
星野俊也(ほしの・としや)略歴
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授・ESGインテグレーション研究教育センターディレクター。2017年8月から3年間、国連日本政府代表部大使・次席常駐代表を務める。上智大外国語学部卒。東京大学大学院総合文化研究科を経て大阪大学で博士号(国際公共政策)を取得。プリンストン大学客員研究員、コロンビア大学客員学者、国連日本政府代表部公使参事官などを経て現職。大阪大学では副学長も歴任する。