コラム

ロシア侵攻から半年 ついに「大規模反攻」の勝負に出たウクライナの狙い

2022年08月31日(水)18時42分
ゼレンスキー大統領

南部での反攻について語るゼレンスキー大統領(8月29日) Ukrainian Presidential Press Service/via Reuters

<ウクライナ軍による南部へルソンへの反転攻勢を前に、ロシアは兵力増強で対抗できるのか。両軍の現状を整理し、今後の行方を見通す>

[ロンドン発]ロシアがウクライナに侵攻して8月24日で半年が過ぎた。原油価格が1バレル=90ドル台で高止まりし、インフレが世界をのみ込む。クリミアなどロシア占領地域の要衝を攻撃してきたウクライナは29日ついに南部ヘルソンで大規模反攻を仕掛けた。米欧の結束が乱れる冬を前に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は勝負に出た。

米金融大手「来年初頭に小売物価指数は21%に高騰」

英国では典型的な家庭が年間に支払う光熱費の上限が4月に1277ポンド(約20万6800円)から1971ポンド(約31万9200円)に引き上げられた。10月に再び3549ポンド(約57万4800円)に値上げされる。英コンサルタント会社によると、来年1月に5387ポンド(約87万2400円)、4月に6616ポンド(約107万1400円)に達する見通しという。

7月の消費者物価指数は前年同月比で10.1%も上昇。約40年ぶりの高水準だ。英中央銀行、イングランド銀行は10月には13.3%になると警鐘を鳴らす。米金融大手シティは来年初頭に消費者物価指数は18%を突破、小売物価指数は21%にまで高騰すると予測する。エネルギーの高騰とインフレはいつまで続くのか、冬を前に英国や欧州の庶民は頭を抱え込む。

欧州の天然ガス価格を押し上げるウクライナ戦争はどう展開していくのか。ロシア軍に詳しい米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)ロシア研究プログラム部長、マイケル・コフマン氏は8月20日、外交・安全保障ポッドキャスト「ウォー・オン・ザ・ロックス」で「ウクライナの反攻を待つ」と題し、次のような見方を示していた。

「現在は戦争の過渡期だ。ロシア軍は東部ドンバスでじりじり前進する一方で、占領した領土を守る態勢に入った。ウクライナ軍はロシアの軍事能力、後方連絡線を削り取ろうと組織的な作戦を展開している。南部ヘルソンはロシア軍にとって脆弱な地域だが、必ずしも反攻の突破口になるとは限らない。ヘルソンでの反攻準備はまだ進められていないと聞いている」

巧みに隠された「Kデイ」

第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の「Dデイ」がカムフラージュされたように「ヘルソン(Kherson)」奪還作戦の「Kデイ」も巧みに隠された。コフマン氏だけでなく、英陸軍関係者からもメディアを通じて、しきりに「年内反攻は時期尚早」との煙幕が張られ、筆者も見事に欺かれた1人だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小幅に続落、ドル安/円高が一服し底

ビジネス

米ユナイテッドヘルス、2024年幹部警備費用は17

ワールド

ローマ教皇、最期まで公務継続 療養中も指導者として

ワールド

ロシア・ウクライナ、二国間協議に前向き姿勢 実現な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story