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今や最も恐いのは「狂信」ではない 「悪魔の詩」著者の襲撃事件が問う現代の危機
「私たちが直面している最大の危機は民主主義が失われることだ」
80年代、ラシュディ氏は「帝国主義の汚物。英国のアジア系移民や黒人にとって警察は植民地の軍隊」とこき下ろす一方で「私たちはホメイニ師のイランを認めないかもしれないが、あの革命は正真正銘の大衆運動だった」と記している。白人を平気で攻撃していたラシュディ氏が白人の助けを求める状況を「暗い茶番」と皮肉る保守系メディアすらあった。
ラシュディ氏は英BBC放送とのインタビューで「『悪魔の詩』は今なら出版されなかっただろう。その判断は正しいのかもしれない」と語っている。「文明の衝突」やテロを回避するため、ムハンマドの表象や風刺は控えられるようになった。西洋とイスラムが共存していく知恵なのか、それとも「表現の自由」の自死なのか。
襲われる2週間前、ラシュディ氏は独週刊誌シュテルンに「自分の人生はごく普通に戻った。今日、多くの人々が自分に対してなされたのと同じような脅迫を受けて生きている。『悪魔の詩』を書いた当時にソーシャルメディアが存在していたならば、私の人生はもっと危険なものになっていただろう。当時はまだファクスでファトワーを送っていた」と話している。
「何が怖いかと聞かれたら、以前なら宗教的狂信と答えただろう。今、私たちが直面する最大の危機は民主主義が失われることだ。人工中絶の合憲性を認めなかった米最高裁の判決以来、米国は制御不能に陥り、崩壊するのではないかと真剣に心配している。米国やその他の地域で広がる(一見しただけでは分からないよう暗号化された)クリプトファシズムだ」
ポピュリズムに覆われる欧州ではイスラム系移民の西洋への同化政策が強化されている。ラシュディ氏の襲撃事件はこうした動きをさらに強めるため政治的に利用される可能性がある。事件がなければ、シャトークア研究所でラシュディ氏は何を語るつもりだったのか。それをまず聞いてみたい。