コラム

「最もセクシーな下院議員」が脱落、次の英首相は「対中国最強硬派」か「王子様」か

2022年07月21日(木)20時10分
ペニー・モーダント

首相官邸から出る国際開発相時代のモーダント(2019年1月) Toby Melville-REUTERS

<ジョンソン首相の辞任表明で始まった保守党の党首選。後継候補は「イギリスの櫻井よしこ」と「ディズニーの王子様」の2人に絞られた>

[ロンドン発]言い逃れのウソを積み重ね、自滅したボリス・ジョンソン英首相の後継を決める与党・保守党の党首選は男女各4人が立候補した。20日、5回目の投票が行われ、「本命」のリシ・スナク前財務相と「対抗」のリズ・トラス外相の2人が残った。今後、立会演説会と約16万人の党員投票が行われ、9月5日に結果が発表される。

【5回目投票の結果】
(1)リシ・スナク前財務相 137票
(2)リズ・トラス外相 113票
(3)ペニー・モーダント貿易政策担当相 105票

保守党党員を対象にした世論調査会社ユーガブの調査では、妻がインドIT長者の娘で資産をほとんど公開していないと批判されているスナク氏と、トラス氏の直接対決では35%対54%とトラス氏に軍配が上がっている。これから党員向け立会演説会でスナク氏がこうした批判をどれだけ払拭できるかが大きなポイントになる。

今回、選出を急ぐため立候補に必要な下院議員の推薦者数を前回の8人から20人に増やした。その結果、出馬の意向を示していた11人のうち、辞任でジョンソン氏辞任の流れを作ったサジド・ジャビド前保健相ら3人が早々と出馬を断念。しかし、それでも立候補した8人のうち4人が移民背景を持つ「多様」で「多文化」な党首選となった。

下院議員の投票で台風の目となったのは、セレブたちが飛び込みを競い合うリアリティーTV番組で水着姿を披露し「最もセクシーな下院議員」と評判になったダークホースのモーダント氏だった。保守党草の根支持層のサイト「コンサーバティブホーム」の簡易世論調査で首位に立ち注目を集めた彼女だが、経験不足がたたり5回目投票で力尽きた。

英政治専門家「何が起きてもおかしくない」

英政治研究者の間では「保守党党首選は絶対に予想するな」と言われる。英キングス・カレッジ・ロンドンのバーノン・ボグダナー研究教授も今月11日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)で記者会見に応じたが「党首選の予想はしない。政策ではなく、総選挙に勝てるパーソナリティーが選ばれる。何が起きてもおかしくない」と各国特派員の質問をかわした。

新型コロナウイルス・パンデミック対策でジョンソン氏を厳しく追及してきたジェレミー・ハント元保健相・外相は基礎票の20票にも満たない18票しか集められず、1回目投票で惨敗。ハント氏は2016年の欧州連合(EU)国民投票で残留を主張し、その後「穏健離脱」に転じたものの、「強硬離脱」がすでにイギリスの既定路線になっていることをうかがわせた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ロシア産LNG輸入を拡大へ 昨年は3.3%増

ビジネス

メタCEO、2018年にインスタグラム分離を真剣に

ビジネス

米国株式市場=小反落、ダウ155ドル安 関税巡る不

ビジネス

ユナイテッド航空、第2四半期見通し予想下回る 景気
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story