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国益よりも30年に及ぶNATOへの怨念で攻めるプーチンの怖さ
ロシアの戦車を破壊した、と主張するウクライナ兵(2月24日、ウクライナのハリコフ) Maksim Levin-REUTERS
<緒戦はウクライナ軍が善戦。だが善戦するほどプーチンは非情さを増す。国益とは無縁の私怨と私欲の戦いだ>
[ロンドン発]「この30年、われわれは北大西洋条約機構(NATO)主要国との間で欧州における対等かつ不可分の安全保障原則について根気よく合意を形成しようとしてきた。われわれは常に皮肉なごまかしや嘘、あるいは圧力や脅しの試みに直面し、NATOはわれわれの抗議や懸念にかかわらず拡大し続けた」
全面的なウクライナへの攻撃を開始したウラジーミル・プーチン露大統領は24日の演説で冷戦終結後、東方拡大を続けてきた米欧に対する怒りをぶちまけた。「われわれはこのような動きを黙って見ているわけにはいかない。わが国にとって、これは生死にかかわる問題であり、国家としての歴史的な未来にかかわる問題なのだ」
「外部から干渉する誘惑に駆られた人たちに、非常に重要なことを申し上げたい。誰が邪魔をしようとも、われわれの国と国民に脅威を与えようとも、ロシアは直ちに対応し、その結果はあなた方の全歴史の中で見たこともないようなものになることを知らなければならない。どのような展開になろうとも、われわれは準備ができている」
ロシア人保護のためなら核戦争も辞さない考えを表明したプーチン氏はバルト三国でロシア系住民が人口の3割前後に及ぶNATO加盟国のラトビアやエストニアを守る覚悟はあるのか、ジョー・バイデン米大統領を揺さぶった。ロシアの飛び地領カリーニングラードと同盟国ベラルーシに挟まれた「スヴァウキ・ギャップ」はNATO最大の弱点である。
考えなしだったNATO拡大政策
2008年のグルジア(現ジョージア)紛争直後、英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のジョン・チップマン所長は「欧州はアメリカにNATO拡大の重要性についてノスタルジックにではなく、戦略的に考えるよう求めたい。NATOは拡大政策をロシアンルーレットのゲームにしてはならない」と釘を刺した。その時の懸念が14年の歳月を経て現実となった。
ウクライナ侵攻が泥沼化すればプーチン氏の政権基盤も崩れる。狡猾なプーチン氏が両刃の剣となる賭けに出たのは、反ロシアの強硬姿勢を強めるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がモスクワを射程内に収める国産ミサイルの開発を進め、昨年10月にはトルコから購入した無人機でウクライナ東部の親露派支配地域を攻撃したことが大きい。
プーチン氏は大局を踏まえて行動しているように見えて、実は状況に対応して動いている。その意味で2014年以降、ウクライナに27億ドル(約3111億円)の安全保障支援をし、元コメディアンのゼレンスキー氏にNATO加盟が実現するかのような幻想を抱かせてしまった米欧は軽率だったと言わざるを得ないだろう。