コラム

国益よりも30年に及ぶNATOへの怨念で攻めるプーチンの怖さ

2022年02月25日(金)20時36分

中国を睨んでインド太平洋に専念したかったバイデン氏はアフガニスタンから撤退し、欧州の安全保障も欧州に任せたかったが、これからは中国とロシアの二正面作戦を強いられる。NATO加盟国やインド太平洋におけるアメリカの同盟国は国内総生産(GDP)比で2%の国防費支出は必須になるだろう。戦後、1%枠に縛られてきた日本も再考を迫られるのは必至だ。

緒戦はウクライナ軍が善戦

しかしすべてはウクライナ軍がどこまでロシア軍の攻撃に耐えられるかにかかっている。米海軍問題シンクタンクCNAロシア研究プログラムのマイケル・コフマン部長はツイッターに「非常に不完全な推測」と断りながらロシア軍の作戦計画を投稿。それによるとロシア軍はウクライナを東西に二分するドニエプル川を超え東側3分の2まで進む恐れがあるという。

一方、米シンクタンク、戦争研究所(ISW)によると、ロシアの空爆やミサイル攻撃は、米軍がウクライナ軍の訓練を行ってきた「平和訓練センター」のあるウクライナ西端のリヴィウを含む全土に及び、クリミア半島の北部や首都キエフ北側の国境付近がすでにロシア軍に占領されている。

ISWの分析では、ウクライナ軍はクリミア半島北部を除くロシア軍のすべての進撃軸でロシア軍の侵攻を遅らせることに成功している。ロシア軍がウクライナ空軍を地上に釘付けしたり、ウクライナ軍の指揮統制をマヒさせたりするのに失敗したことがウクライナ軍の緒戦の成功を可能にしたと考えられる。

ロシア軍の作戦は24日午前4時(現地時間)ごろ、非占領下のウクライナ全土の防空施設、補給基地、飛行場などを標的とした短時間で不完全な空爆・ミサイル攻撃で始まった。最初の攻撃で短・中距離弾道ミサイル、巡航ミサイル、海上発射ミサイルを含む100発以上が打ち込まれた。

ロシア軍地上部隊は4つの進撃軸で攻撃

ウクライナ軍の指揮統制と再配置能力を低下させるため、今後数日間さらなる波状攻撃が行われるとみられる。現在のところロシア軍地上部隊の進撃軸は(1)ベラルーシからキエフに向け南進(2)クリミア半島から北進(3)東部ドンバスではルガンスクの非占領地域を包囲しようと後方への展開を試みる(4)北東部ハリコフへの正面攻撃――の4つだ。

ロシア軍はすでに支配下に置くクリミア半島から北進し、約60キロメートルの地点まで侵攻した。一方、ウクライナ軍は、ロシア軍の空挺部隊からホストーメリ空港を奪還し、キエフを西側から孤立させようとするロシア軍の作戦を撃退。ロシア軍はキエフを東西から挟み撃ちにしようとベラルーシから南進するも、ドニエプル川の東側で食い止められている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル、ガザ巡る国連職員の中立性に疑義 幹

ビジネス

米アメックスがプラチナカード刷新で3500ドル追加

ビジネス

午前の日経平均は続伸、ハイテク株主導で最高値 一巡

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story