コラム

ウィリアム王子「宇宙旅行より地球を守れ」はなぜ失言なのか

2021年10月15日(金)21時46分
ウィリアム王子

「地球に集中するべき」と言うウィリアム王子の言い分ももっともに聞こえる The Earthshot Prize/Instagram

[ロンドン発]米宇宙企業ブルーオリジン独自の宇宙船「ニューシェパード」で、日本でもお馴染みのSFドラマ「スター・トレック」のカーク船長を演じた俳優ウィリアム・シャトナー氏(90)ら4人が11分間の宇宙旅行を楽しんだ。同企業の創設者で米インターネット通販大手アマゾン・コム創業者ジェフ・ベゾス氏が「カーク船長」の帰還を出迎えた。

ブルーオリジンの宇宙旅行は7月、ベゾス氏らを乗せた飛行に続いて2回目。シャトナー氏はスター・トレックの熱狂的なファンのベゾス氏が無料で招待した。同じ7月には英実業家リチャード・ブランソン氏の米宇宙旅行会社ヴァージンギャラクティックの有人宇宙船「スペースシップ2」で同氏ら6人が1時間の試験飛行に成功している。

「カーク船長」本物の宇宙に行く


自らの宇宙船で宇宙旅行を楽しんだ億万長者はブランソン氏が一人目で、ベゾス氏が二人目だ。ヴァージンギャラクティックの「スペースシップ2」と異なり、ブルーオリジンの「ニューシェパード」は完全自動化され、操縦士は乗り込む必要がない。最大6人乗りのカプセルも繰り返し利用できる。

「ムーンショット」か「アースショット」か

激化する宇宙旅行競争について、環境問題に取り組むウィリアム英王子は英BBC放送で「自分の子供だけでなく、すべての子供たちのために、自分自身が味わったアウトドアライフ、自然や環境の素晴らしさが保たれることを望みます。もし私たちが子供たちの未来を奪っていることに無頓着だったら、それは公正ではないと思います」と発言した。

「いま宇宙開発競争が繰り広げられています。誰でも宇宙旅行に行けるようにする試みを目の当たりにしています。私たちは、次なる地球を見つけるのではなく、この地球を修復する偉大な頭脳と心を必要としています。将来の解決策を考えるために宇宙に行くのではなく、この地球に集中することが重要です」と具体名を避けながら地球保護の重要性を訴えた。

1960年代、ジョン・ケネディ米大統領が「10年以内に月に人類を送り込む」と宣言した「ムーンショット」計画にちなんで、ウィリアム王子は英動物学者デイビッド・アッテンボロー氏と地球を救う「アースショット賞」を創設した。ウィリアム王子の宇宙旅行競争への批判はそれに合わせたものだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国の尹政権、補正予算を来年初めに検討 消費・成長

ビジネス

トランプ氏の関税・減税政策、評価は詳細判明後=IM

ビジネス

中国アリババ、国内外EC事業を単一部門に統合 競争

ビジネス

嶋田元経産次官、ラピダスの特別参与就任は事実=武藤
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story