コラム

ウィリアム王子「宇宙旅行より地球を守れ」はなぜ失言なのか

2021年10月15日(金)21時46分

100歳を目前に4月に亡くなったフィリップ殿下や、エリザベス女王は69年にバッキンガム宮殿で、人類史上初めて月面に着陸したアポロ11号の宇宙飛行士3人に会っている。しかし孫のウィリアム王子は宇宙に行くことには「全く興味がない」と言い切った。低所得・貧困層は「宇宙旅行するカネがあるならパンをくれ」と叫ぶかもしれない。

ウィリアム王子発言に早速「カーク船長」が噛み付いた。シャトナー氏は、前回の飛行に参加した米女性宇宙飛行士候補ウォリー・ファンクさん(82)を抜いて最高齢の宇宙飛行士になった。シャトナー氏は米情報番組のインタビューに「彼は素敵な人で、いずれイギリスの国王になるけど、間違った考えを持っている」と批判した。

「俺を見てくれ、俺は宇宙にいるんだと誇示することが目的ではありません。これは宇宙に産業を興すための最初の一歩であり、環境を汚染する産業、特に発電する産業を地球から切り離すためのものです。地球の250~280マイル上空に基地を作り、電力を地球に送るという壮大なプロジェクトの第一歩なのです」

「大富豪の道楽」説も

実際に米空軍研究所は太陽光による電力を地球に放射する人工衛星用のハードウェアを開発する計画を進めている。

イギリスの宇宙飛行士ティム・ピーク氏(49)も「宇宙は気候変動のデータを提供し、国家のインフラを支えるものとして信じられないほど重要だ」とシャトナー氏の反論を支持した。「気候変動に関するデータの50%以上が宇宙からのものです。宇宙は私たちの重要な国家インフラの一部です。誰もが日常的に知らず知らずのうちに宇宙を利用しています」

従来のロケット排出物はオゾン層を破壊すると考えられてきた。ブルーオリジンのロケットエンジンは液体水素と液体酸素の混合燃料を使用しており、従来のロケット燃料よりはるかにクリーンだと英紙インディペンデントは指摘している。

億万長者の宇宙旅行にはさまざまな批判がある。ウィリアム王子の発言は急進左派の環境原理主義者や若者には大いに受けるかもしれない。しかし次世代が自然保護の名の下に科学の可能性を信じられなくなったら、人類を待ち受けているのは進歩ではなく停滞だろう。科学には宇宙開発と地球保護を両立させる力があると筆者は信じるのだが......。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

VW、来週も国内生産継続 ネクスペリア巡る混乱「差

ビジネス

午前の日経平均は続伸一時5万2000円台、ハイテク

ビジネス

イーライリリーの新経口肥満症薬、FDAの新迅速承認

ワールド

独政府、国内ロスネフチ事業の国有化検討 米制裁受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story