コラム

アフガンの20年戦争が残した負の遺産「日本も難民受け入れを」

2021年09月02日(木)11時04分

「父親が53歳で亡くなり、小さな部屋で母親と妻、子供の計6人で暮らしていた。極貧だった。街中を妻と歩いているとタリバンに"なぜ女と歩いている"と武器を突きつけられた。"自分の妻だ"と説明しても、逆に"同じことを繰り返せば次は殺す"と脅された。娘も学校に行けなかった。タリバンの迫害と拷問、非人道的な扱いに怯える毎日だった」

アフガン北部で暮らしていたノラルハクさんは家族を連れ、山を越えて首都カブールに向かった。業者の手引でウクライナへ逃れ、そこから欧州での苦難の旅が始まった。ハンガリーからスロバキアへ、夜に小さなボートに40人以上が乗り込み、川を渡った。フェンスの金網を切断して国境を越え、トウモロコシ畑に身を潜めながら進んだ。

一度はオーストリアの国境警備隊に捕まったものの、ベルギーから冷蔵コンテナの中に潜んでドーバー海峡を渡り、イギリスで亡命申請して認められた。

ノラルハクさんは「9カ月の時間と2万5千ドル(約275万円)を要した。2年前、英東部エセックス州でトラックの冷凍貨物コンテナ内からベトナム人39人が遺体で見つかったが、彼らは34時間コンテナの中に閉じ込められ窒息死した。私たちは9時間だった。それが生死の分かれ目だった」と振り返る。

英名門ケンブリッジ大学博士課程に進んだ娘

20210830_142628.jpeg
ノラルハクさんの長女シャブナムさん(筆者撮影)

ノラルハクさんの次女ラビアさんは英ゴールドスミス大学を卒業、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの修士課程を終え、英名門ケンブリッジ大学博士課程に進んだ。これが教育の力だ。長女シャブナム・ナシミさん(30)は「アフガン戦争が始まる2001年以前のタリバン支配に戻っただけではなく、実際にはもっと悪くなっている」と言う。

「タリバンはより厳しく、過酷になった。女性や活動家はタリバンに狙われるのを恐れて家から出ようとしない。欧米にはこうした人々を助ける道徳的な義務がある。アフガンは欧米の撤退を望んでいなかった。撤退でアフガンは完全に混乱に陥った。民主主義を実現するために懸命に働いてきた人々が標的にされるのを目の当たりにするのは心が痛む」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story