コラム

イギリスの危ない実験「感染ピークは6週間続き、1日1千~2千人の入院で医療が逼迫」、最悪11万5800人が死ぬ

2021年07月14日(水)09時04分
ウィンブルドンの観客

スポーツイベントの規制が緩和されるやウインブルドンに戻ってきた人々(7月5日) Peter van den Berg-USA TODAY Sports

<「パンデミックは世界中で猛烈に進行している。いくらワクチン接種が進んだとはいえ、大規模緩和や自由について話すのは時期尚早だ」>

[ロンドン発]英政府が7月19日からコロナの法的規制をほぼ全面解除する前提となった予測モデルについて、非常時科学諮問委員会(SAGE)パンデミック・モデリング・グループ議長のグレアム・メドレー・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)教授が13日、英BBC放送のラジオ番組で「1日の入院患者が2千人を超えることはないものの、ピークは6週間続き、医療が逼迫する恐れがある」と証言した。

最も起こりうるモデルで入院患者のピークは1日1千~2千人、死者は100~200人と予測。それが6週間続くと単純計算で入院患者は計4万2千~8万4千人、死者は4200~8400人にのぼる。東京五輪・パラリンピックが迫る日本では「イギリスを見習え」という声も聞かれるが、死者がまだ1万4959人に過ぎない日本ではとても受け入れられないシナリオだ。

ワクチンを2回接種済みの人も今の第3波にのみ込まれ、「死者の約半数を占める」ことをメドレー教授は認めた。その一方で「ワクチンを接種していなければ今ごろ1日に300人、400人、500人の死者が出ていたはず。死者が約100分の1で済んでいるのはワクチンのおかげ。入院患者が1日に5千人に達するような状況はよほど悪いことが重ならない限り、起こらない」と断言した。

メドレー教授によると、インペリアル・カレッジ・ロンドン、LSHTM、ウォーリック大学が3つの異なるモデルを使って予測した結果、そのものズバリの数字は出せなかったものの、最悪期の今年1月より多い感染者を出す一方で、ワクチン接種の効果で入院患者や死者は少なくなるとの見方で一致した。

悲観シナリオなら来年6月までの死者総数11万5800人

その中からインペリアル・カレッジ・ロンドンの予測モデルを見てみよう。

ワクチン2回接種の効果が「強い」「普通」「弱い」の3シナリオと、7月19日に社会的距離など非医薬品介入を解除した後、感染者から新たに何人に感染するかを示す再生産数(R)を「高(平均で7)」「中(同5.5)」「低(同4.5)」「9月1日までゆっくりと5.5に上昇する」と想定した場合の4シナリオを組み合わせて検討している。

米ファイザー製と英アストラゼネカ製のワクチンを2回接種した場合、「高い」「普通」「弱い」のいずれのシナリオもデルタ(インド変異)株による死亡を防ぐ有効性は95~98%、重症化を防ぐ有効性も85~98%と高く設定されている。ワクチンの効果を「普通」とし、7月19日に解除した場合、予測モデルは次のようになる。

kimura20210714080301.jpg

オレンジ色の欄がおそらくインペリアルのチームが想定するメインシナリオだろう。7月19日に解除した場合、ワクチン効果を「強い」「普通」「弱い」の3シナリオに分けて予測したのが下のグラフである。

kimura20210714080302.jpg

インペリアルのモデルでは、7月19日に解除しても4週間遅らせて8月16日に解除してもそれほど大きな違いはない。しかし楽観シナリオで死者総数9400人、入院患者総数7万7500人、悲観シナリオで死者総数11万5800人、入院患者総数82万700人と大きな開きが出る。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story