コラム

「香港はディアスポラ。既に10万人が英国にいる」中国から指名手配される活動家サイモン・チェン

2021年07月07日(水)11時10分
サイモン・チェン

元在香港英国総領事館職員のサイモン・チェンは英国に逃れてきた香港市民を支援する団体を設立した COURTESY OF SIMON CHENG

<香港市民に英国永住への道を開いた英国で、香港人たちを支援するサイモン・チェン。元在香港英国総領事館職員の彼は「台湾統一への誤ったシグナルを送るな」と警告した>

※もう1人の在英活動家、羅冠聡(ネイサン・ロー)のインタビューから続く:「一国二制度は終わったが、独裁は永遠に続かない」英国に亡命した香港民主活動家、羅冠聡インタビュー

2019年8月、中国公安当局に2週間以上拘束され、その後英国への政治亡命が認められた元在香港英国総領事館職員サイモン・チェンも国安法違反容疑で指名手配されている。

「有名でも活発な民主派でもなかったが、スパイ容疑をかけられ、身に覚えのない買春を自白させられた。海外に逃れ、活動に転じたことに悔いはない」と、筆者の取材に答えた。

チェンはメディアやフォーラムで香港での弾圧を訴える一方で、英国に逃れてきた香港市民を支援する団体「英国港僑協会」を創設した。

定住、メンタルヘルスから、英語学習など教育、履歴書の書き方など就労に至るまでサポートを提供している。親交を深めるためロンドンツアーも行った。英語クラスには200人から申し込みがあったという。

会員制は取っていない。万一、個人情報が漏れると中国に弾圧される恐れがあるからだ。

同協会の憲章でチェンは「香港はもはや単なる都市ではなく、ディアスポラ(離散した人々)であり、常に共通の文化的価値観を保ち、実践している」と宣言している。

英国は今年1月末、香港市民に英国永住への道を開く特別ビザ申請の受け付けを開始した。

特別ビザ申請は1997年の香港返還前に生まれた約290万人の英国海外市民(BNO)資格を持つ香港市民とその家族に認められ、英内務省によると3月末時点で3万4300人が申請した。

チェンは「既に10万人が香港を逃れて英国にいる」と試算する。

英政府は香港市民の定住を支援する歓迎プログラムに4300万ポンド(66億円)を充てる。

「英国は香港市民に最も優しい国だ。だが国安法でパスポートや渡航書類が没収されると香港から脱出できなくなる。パンデミック(世界的大流行)を口実に英国から香港への航空便も停止された」とチェンは言う。

4月には香港立法会で移民法が可決され、施行開始となる8月からは当局が入出境制限に絶対的権限を持つようになる。

「香港に出入りするのが好ましくないと当局が判断すれば誰でも止めることができる」

8月までにさらに多くの香港市民が英国に逃れることが予想されるため、当局は監視を強化しているとチェンは分析する。

「脱出するチャンスが完全に奪われることを一般市民は恐れている。頭脳流出や資本逃避の防止、金融都市の地位を守るためなど口実はいくらでもある」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story