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ワクチンが灯した「希望」を「絶望」に変えた南ア変異株 イギリスはローラー検査でシラミ潰し作戦を開始
庭を100周してコロナと戦うための支援金を集めたムーア氏も2日、コロナで亡くなった Peter Cziborra-REUTERS
[ロンドン発]「この1年、どこかでコロナと会っているはず。でも感染も発症もしなかった。私はワクチンに強い副反応を起こしたことがあるので、コロナワクチンは無理かもしれない。どんなにウイルスが変異してもこれまで勝ってきたんだから、希望を捨ててはダメと言い聞かせている」
ロンドンを拠点に活動する歌手、鈴木ナオミさん(本人提供)
ロンドンを拠点に活動する歌手、鈴木ナオミさんは免疫力が少しでも落ちると肺炎と出血を繰り返し、2019年5月に肺の手術を受けた。新型コロナウイルス感染症のハイリスクグループだ。しかし5~6年前、肺炎球菌ワクチンを接種した時、副反応で摂氏40度の高熱が出て、腕がスイカのように腫れた。
「それでも絶望しないのは、安全距離やマスク着用、手洗いといった感染対策をしっかりしていればウイルスを恐れる必要はないから。しかし、ほとんどの人はこの状況を受け止められないでいる。だから外に出る必要がない私が音楽を通じて"みんな元気を出して頑張ろうぜ!"と励ましたいの」
イギリスでは昨年3月、1度目のロックダウン(都市封鎖)が敷かれた。ナオミさんは「明日どうなるか分からない命だからこそ、手元にある未発表の曲を世の中に出しておきたい」と随分、昔につくってもらった曲「ハーダー・アンド・ファースター」をiTunes(アイチューンズ)で配信した。
3カ月後、この曲が世界1640人のラジオDJが選ぶ「キングズ・オブ・スピン・トップ30」の1位に輝いた。そして新年「♪真っ直ぐ続く道 希望の鐘が鳴る街 本当の幸せ いつしか忘れ」とコロナ危機と世界の分断、希望の光を歌った「プレイ・フォー・ユー2021」が再び1位に飛び出したのだ。
歩行募金で47億円集めたキャプテン・トムもコロナに死す
イギリスでは2日、第二次世界大戦の生き残りで、原則無償で医療を提供する英国民医療サービス(NHS)を支援しようと自宅の庭を往復して150万人から約3280万ポンド(約47億円)を集めた英陸軍退役大尉トム・ムーア氏(100歳)が急逝した。肺炎治療のためコロナワクチンは接種していなかった。
「歩行補助具を使って庭を往復する彼の募金活動で国が一つになった。イギリスらしいなと思った。私も癒やされた」とナオミさんは言う。イギリスはワクチンの集団接種で感染防止の防波堤を築く「集団免疫」を目指し、965万人に接種。介護施設の1万人、80歳以上の9割、70歳以上の半分が接種を終えた。
感染力が最大70%も強い英変異株の猛威が3度目の都市封鎖で鎮静化し始めたものの、ワクチンの有効性を6分の1に低下させる恐れがある南アフリカ変異株が相次いで見つかり、絶望の暗雲が広がり始めている。ジョンソン英政権は南ア変異株を虱潰しにするため、国内8地域でローラー検査作戦を開始した。