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「独自の核保有はあり得ない」とドイツ国防相が完全否定した理由とは──確実に進むアメリカと欧州の離反
NATO首脳会議で演説したトランプ。欧州諸国の分担金負担が足りないと説教して不興を買った(2017年5月、ブリュッセルにて) Jonathan Ernst-REUTERS
[ロンドン発]ドイツのウルズラ・フォンデアライエン国防相(59)が2月28日、母校のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で講演した。イギリスのEU離脱(ブレグジット)交渉が本格化する中、フォンデアライエンは「残念だけど、ブレグジットは止められそうにないわね」と言って、イギリスの学生や欧州大陸からの留学生を苦笑いさせた。
LSEで講演するフォンデアライエン国防相(筆者撮影)
第二次大戦後、軽武装・経済外交を柱にした日本の吉田ドクトリンと異なり、冷戦の最前線に立たされた西ドイツは、イギリスやフランスと同レベルの国防支出を強いられた。しかし、冷戦が終結すると、ドイツは国防費を劇的に削減させた。
EUの単一市場と単一通貨ユーロをフルに活用して貿易黒字を積み上げたため、ドイツの国防費は対国内総生産(GDP)比で1.22%にとどまり、イギリスの2.14%、フランスの1.79%に比べて著しく低下した。
トランプのアメリカはあてにできない
軍事や安全保障への積極的なかかわりを避けてきたドイツは大きな転換点を迎えている。「北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れ。欧州加盟国はもっと負担を」とアメリカのトランプ政権から突き上げられ、イギリスのEU離脱が避けられなくなってきたからだ。
かつてはアンゲラ・メルケル独首相の有力後継者と取り沙汰されたフォンデアライエンは7児の母親としても知られる。
講演では真っ先に、ナチス・ドイツを撃破したウィンストン・チャーチル英首相が1946年、チューリッヒ大学で「私たちは欧州合衆国を築き上げなければならない。フランスとドイツのパートナーシップがその第一歩になる」と宣言した有名な演説を引用した。
メルケル首相は「私たちが他国に完全に頼れる時代はある程度、終わった。欧州は真に自らの運命を私たちの手に取り戻さなければならない」と欧州の自立を唱えている。EUが、兵器の共同開発・調達、域外派兵や訓練を通じて防衛協力を強化する新機構「常設軍事協力枠組み」(PESCO)を設けたのもその流れの中にある。
ドイツ国内ではアメリカ軍の戦術核(地理的に使用範囲が限られている核兵器)に頼るのではなく、独自の核抑止力を保有すべきだという過激な意見も飛び出すようになった。トランプのアメリカはもうあてにはできないというわけだ。
フォンデアライエンは会場からの質問に、ドイツが独自の核兵器を開発・保有するという選択肢を「あり得ない」と完全に否定した。ドイツの外交・安全保障政策はフランス・ドイツ関係に軸足を置くか、アメリカとの同盟関係を優先するかの間で常に揺れてきた。ドイツが独自核を追求すれば、欧州に対するアメリカのコミットメントは完全に後退する。