コラム

英保守党大会、不幸な大失態演じたメイ首相とほくそ笑むジョンソン外相

2017年10月05日(木)15時30分

起死回生を狙う重要な演説中、痰が絡んで話せなくなったメイ英首相 Phil Noble-REUTERS

[英マンチェスター発]保守党大会の党首演説で政権浮揚を狙ったテリーザ・メイ首相にとっては非常に気の毒な展開となった。党大会最終日の4日、メイの演説を聞こうと朝早くから支持者が長い列をつくった。筆者もその中にいた。

欧州連合(EU)離脱交渉に再三にわたって口先介入し、「メイ下ろし」の狼煙を上げる動きを見せたボリス・ジョンソン外相。「政界の道化師」の異名を取るジョンソンは前日の演説で内閣の結束を強調し、当面は動かない構えを見せた。

kimura20171005110601.jpg
「メイ下ろし」の矛先を収めたジョンソン外相(筆者撮影)

初めて聞くひどい演説

党大会を生き延びたメイは最終日の党首演説で目玉政策を打ち出し、最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首に逆転された支持率回復のきっかけをつかみたいと意欲を燃やしていたに違いない。

先の解散・総選挙で得票数を大幅に上積みしたものの、よもやの過半数割れを喫したメイは演説の中で素直に詫びた。保守党員と同僚議員はメイの謝罪を受け入れた。これでメイは調子をつかんだかに見えた。

kimura20171005110602.jpg
メイ首相の演説を妨害するコメディアンの男(筆者撮影)

が突然、白色ワイシャツに眼鏡をかけたコメディアンの男が何かを叫んでメイに近づき、白い紙を渡した。英BBC放送によると、「P45」と呼ばれる離職証明書だ。「ボリス(ジョンソン)にこれを渡すように頼まれた」と大声を出すコメディアンはジョンソンに近づき、警備員に連れ出された。

メイは「P45を渡したいのはジェレミー・コービンだけ」と即席のジョークでハプニングをやり過ごした。しかし災難はこれだけでは終わらなかった。痰がノドにからんで演説ができなくなってしまったのだ。

コップの水を飲んでも、咳をしても声は戻らない。弱り目に祟り目とはまさにこのことだ。

KIM_9914 (720x539).jpg
メイ首相にノド飴を手渡すハモンド財務相(筆者撮影)

総選挙で仲違いした大学時代からの盟友フィリップ・ハモンド財務相がメイにノド飴を手渡した。メイは会場の温かい励ましに支えられ、何とか演説を終えた。持ち家支援のため追加の財政出動も目玉政策として含まれていたが、何を演説したのか、おそらく誰も覚えていまい。

メディアのヘッドラインもコメディアンの乱入と声が出なくなったことで覆いつくされた。討論が政治文化になっているイギリスで、首相がこれだけひどい演説をするのは聞いたことがない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story