コラム

EUは「死のロード」を生き残れるか 最大の難関はフランス大統領選だ

2016年12月06日(火)07時30分

国民投票に敗北し辞任の意向を示した伊レンツィ首相 Alessandro Bianchi-REUTERS

 4日、オーストリア大統領選のやり直し決選投票と憲法改正の是非を問うイタリアの国民投票が行われた。オーストリアでは5月の決選投票に続いて反欧州連合(EU)派の極右候補を緑の党元党首が退けた。しかし、イタリアの国民投票は大差で否決され、レンツィ首相が即座に辞任を表明した。親EU派にとっては英国のEU離脱決定に次ぐ大きな打撃となった。

【参考記事】オーストリアにEU初の極右政権が生まれる?
【参考記事】国民投票とポピュリスト政党、イタリアの危険過ぎるアンサンブル

親EU派の敗北相次ぐ

 EUの生き残りをかけた「死のロード」が続いている。正直言って非常に厳しい状況だ。まずロードマップを俯瞰しておこう。●は親EU派の敗北、○は勝利を意味する。

 2016年4月 EU・ウクライナ連合協定をめぐるオランダ国民投票
 EUとウクライナの政治・経済関係を強化する「連合協定」の是非を問う国民投票がオランダで実施され、反対64%、賛成36%で否決される。政府とEUへの国民の不信感が浮き彫りに。

 6月 EU残留・離脱を問う英国の国民投票
 英国は離脱52%、残留48%でEU離脱を決定。EU移民の大量流入、EUへの拠出金が国民の不満を買う。キャメロン首相は辞任。サッチャー以来、約四半世紀ぶり2人目の女性首相メイが離脱の舵取りを担う。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 10月 ハンガリーがEUの難民割当政策めぐり国民投票△ 
 EU加盟国ごとに難民の受け入れ人数を割り当てる政策をめぐり国民投票が実施され、反対票が98%近くに達する。投票率は43%にとどまり、有効となる50%に届かず無効に。

【参考記事】イスラム嫌いのスロバキアとEUの深い亀裂

 11月 米大統領選で共和党候補トランプ氏勝利
 英国のEU離脱を支持するトランプ氏が大方の予想を裏切って民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官を破る。トランプ氏は英国のEU離脱や反移民・難民を主張してきた英国独立党(UKIP)のファラージ暫定党首を在米英国大使に逆指名したため、メイ政権に激震が走る。

 12月 憲法改正を問うイタリア国民投票● 
 レンツィ首相は敗北を受け、「政権を担う私の経験はここに終了した」と即座に辞任表明。世論調査では単一通貨ユーロの是非を問う国民投票を主張する反EU派の新興政党・五つ星運動がレンツィ首相の民主党を上回ることも。

 12月 オーストリア大統領選のやり直し投票
 5月の決選投票のやり直しで、緑の党のファン・デア・ベレン元党首が再び極右政党・自由党のホーファー氏を退ける。自由党は戦後、元ナチス党員らによって結成され、反エスタブリッシュメント(支配層)、反グローバリズム、反EU、反移民・難民を訴え、支持を集める。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story