国民投票とポピュリスト政党、イタリアの危険過ぎるアンサンブル
Giorgio Perottino-REUTERS
<銀行危機でユーロ離脱論争に拍車がかかるイタリア。ポピュリスト政党「五つ星運動」が台頭する中で、国民投票の結果、経済が大打撃を受けることになったブレグジットの二の舞を避けられるか>(写真は「五つ星運動」を率いるグリッロ)
夏、イタリアは観光のハイシーズンを迎えている。古代ローマの遺跡を散策し、エスプレッソをすすり、ジェラートに感激して、最高の建築美を誇る広場をそぞろ歩く。世界中から来た観光客がイタリアの夏を満喫している――背後に嵐が迫っていることも、しばし忘れて。
イタリアは危機に瀕している。彼らがこれをどう乗り切るかによって、EUも世界経済も深刻な影響を受ける。
懸念されるのは、左派ポピュリストの台頭だ。世論調査では立て続けに、お笑い芸人ベッペ・グリッロが率いるポピュリスト政党「五つ星運動」が、中道左派の与党・民主党(PD)を抑え1%未満の僅差ながら支持率トップ。6月に行われた市長選は、ローマとトリノで五つ星運動の女性候補が圧勝した。
彼らの勢いを警戒する理由は、グリッロがイタリア経済の立て直しについて答えを持っていないからだ。ポピュリストらしくスローガンは山ほど持っているが、低成長から抜け出すための具体的な政策は何もない。
【参考記事】英議会、2度目の国民投票について9月に議論
最も危険なのは、五つ星運動が、ユーロ離脱を問う国民投票の実施を掲げていることだ。ブレグジット(イギリスのEU離脱)の教訓の1つは、政策のメリットとデメリットに関する繊細な議論が国民投票の熱狂にいとも簡単にのみ込まれてしまうということだ。
「長い下り坂」の始まり
イタリアがユーロを離脱すれば、ブレグジットと同じ衝撃が経済に広がるだろう。
イギリスの国民投票の数日後、大手格付け会社2社が英国債の格付けを引き下げた。ポンドは下落を続け、今月5日には31年ぶりの安値を付けた。投資家はイギリスから資金を引き揚げ始め、金融サービス企業はロンドンの雇用をヨーロッパのほかの首都に移す意向を示している。
イギリスの空に灰色の雲が垂れ込めているのは、天候のせいではない。経済界や若い世代、都市部の専門職の間に、国民投票が長い下り坂の始まりを確実なものにしたという明白な喪失感が漂っているのだ。イギリスは過去を生きる国になった。
イタリアにとってポピュリスト政治に軽々しく手を出すことは、好景気のときでも十分に問題だが、経済不振の真っただ中となるとあまりに危険だ。