コラム

EUは「死のロード」を生き残れるか 最大の難関はフランス大統領選だ

2016年12月06日(火)07時30分

 2017年3月 オランダ総選挙 
 世論調査では、イスラム系移民排斥やEU離脱を主張する極右政党・自由党がルッテ首相率いる自由民主国民党を最大10ポイントもリード。

 4~5月 フランス大統領選
 極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は米大統領選でのトランプ氏勝利に「これまで不可能とみなされてきたことが可能になった」と喝采を叫び、フランス大統領選で英国のEU離脱決定、トランプ氏に続けと激を飛ばす。世論調査では、最大野党・共和党など右派・中道陣営候補のフィヨン元首相が優勢だが、ルペン大統領が誕生するようなことになればEUばかりか自由貿易と民主主義のプロジェクトが木っ端微塵に粉砕される。

【参考記事】テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン

 8~10月 ドイツ総選挙 
 昨年の難民危機で門戸を開放したメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の政党支持率は40%台から30%台前半に急落。ユーロ離脱、反移民・難民を唱える新興政党・ドイツのための選択肢が10%台まで支持を伸ばす。

【参考記事】メルケルを脅かす反移民政党が選挙で大躍進

 楽観できるのはドイツの総選挙だけだ。それでもメルケル政権の基盤が弱まれば、欧州で反EU勢力が一段と勢いを増す。最大の難関はどう見てもフランス大統領選だ。

自国は誤った方向に、仏の9割

 英世論調査会社Ipsos MORIがこの10月、世界25カ国の1万8064人を対象に「自分の国が正しい方向に進んでいると思うか」と尋ねたところ、親EU派にとって衝撃的な結果が出た。

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「自分の国が誤った方向に進んでいる」と回答した人の割合は、EU離脱を決定した英国で60%。人種差別・性差別発言を繰り返した暴言大魔王トランプ氏を大統領に選んだ米国は63%。EUの難民割当政策に98%が反対したハンガリーは82%。国民投票で憲法改正を否決したイタリアは82%。

 大統領選を控えるフランスでは「自分の国が誤った方向に進んでいる」と答えた人が実に89%にのぼった。このデータを見るとフィヨン氏が勝利するという保証は何一つない。UKIPのファラージ暫定党首も仏国民戦線のルペン党首も欧州懐疑派は、EU解体を目論むロシアのプーチン大統領への崇拝を隠さない。

 プーチン大統領のプロパガンダが欧州懐疑派の台頭にどれだけ影響を与えたのか正確に知るのは難しい。ただ状況がプーチン大統領のシナリオ通りに動いているのだけは間違いない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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