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プーチン大統領のストリート・ファイト戦略に翻弄される欧米諸国
欧米が犯した過ちは、常に臨戦態勢のプーチン(右)を見くびっていたこと Aleksey Nikolskyi- REUTERS
欧州の安全保障にとって、ロシアが再び最大の脅威になってきた。冷戦が終結し、旧ソ連が崩壊した後、ロシアは先進国7カ国(G7)に加わり、北大西洋条約機構(NATO)とも協力関係を築いてきた。しかし、露大統領プーチンが昨年3月、クリミア併合を強行したのを境に欧米とロシアの関係は「協力」から「対立」に一変した。今年9月末、プーチンはシリア反政府勢力への空爆を開始、シリアのアサド政権を存続させ、米国を交渉のテーブルにつける狙いは今のところ奏功している。武力行使をためらわないプーチンのストリート・ファイト作戦に対し、打つ手はあるのか――。
米大統領オバマはこの2年間、16回も「米軍の地上部隊をシリアに派遣することはない」と繰り返してきたが、50人以下の特殊部隊をシリアに派遣することをようやく承認した。ロシアの脅威に対応するためNATOは即応部隊を増強することを決めたものの、英国がバルト三国に展開する部隊はわずか100人。武力行使をためらわず即断即決で行動するプーチンの前に、欧米は手をこまぬいている。
シリア空爆を機に、プーチンは中東だけでなく、旧ソ連諸国、北極圏、極東などで活発に動いている。不穏なのは旧ソ連諸国やバルカン半島での動きだ。
10月、プーチンは旧ソ連諸国の指導者と合同の国境警備隊を創設することで合意。ジョージア(旧グルジア)から事実上独立した南オセチア共和国の大統領チビロフがロシア編入の住民投票を実施する頃合いだと発言した。NATOの旧東欧での活動に牽制するため、ロシアとベラルーシは来年にも「合同軍事機関」を創設することを計画している。
後方撹乱とみることもできる動きも出ている。モルドバでは親ロシア派の野党が親欧派の連立政権に対し不信任案を求め、モンテネグロの首相ジュカノビッチが同国内でロシアが反政府デモを組織していると批判した。
これに対し、ドイツの首相メルケルは、欧州に押し寄せるシリア難民、抗議活動が高まる米国との環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉への対応で頭がいっぱいだ。英国の首相キャメロンに至っては、欧州連合(EU)に残留するか否かを問う国民投票に向けた準備、中国との経済関係強化に余念がない。
プーチンは戦術核の使用も辞さない
新著『ミスター・プーチン クレムリンのスパイ』(共著)のPRを兼ねてロンドンを訪れた米シンクタンク、ブルッキングス研究所のフィオナ・ヒル上級研究員は「プーチン氏は、第二次大戦の英首相チャーチルと同じように、自分は戦時大統領だと考えている」と語る。ヒル女史は米国家情報会議(NIC)でロシア問題を担当したプーチン研究の第一人者だ。