コラム

韓国の世代間格差と若者の怒り

2020年09月15日(火)11時35分

学費の値下げを求めて座り込む韓国の学生(2011、ソウル) Cho Sung-Bong-REUTERS

<高成長時代にまだ少なかった大学卒としていい会社に入り家も手に入れた386世代に対し、アジア通貨危機後に社会に出た世代は安定した仕事もお金もないない尽くし>

韓国社会における世代間の葛藤が深刻化している。朝鮮戦争以降、韓国社会の世代区分は多様な定義があり、重複する年もあるものの、大きく(1)ベビーブーム世代(1955年~1963年生まれ)、(2)386世代(1960年代生まれ)、(3)X世代(1970年代生まれ)、(4)Y世代(1980年~1995年生まれ、ミレニアル世代ともいう)、(5)Z世代(1996年~2012年生まれ)に区分することができる。

韓国社会における世代間の葛藤は多様な世代間で起きているものの、主には若者世代や高齢者世代、そして386世代とそれ以降に生まれた世代を中心に議論することができる。

空気を読めない一部の高齢者

まず、若者世代や高齢者世代の葛藤は主に意識の差により発生している。韓国社会には今も「儒教思想」が根強く残っている。目上の人とお酒を飲むときには失礼がないように顔を横に回して飲む、若者は電車の優先席に座らない、普通席に座っていてもお年寄りが乗ると席を譲る等、義務ではないものの、若者が守るべきことは多い。人口高齢化の進展に伴い、地下鉄会社が1984年から段階的に65歳以上の高齢者に対する乗車料金を無料化してきたために、地下鉄を利用する高齢者は急増した。10年前には、無料であることを利用した格安の「老人地下鉄宅配」というビジネスも登場したほどだ。高齢者の利用が増えたことで、若者が座って休める確率は低下した可能性が高い。料金を払って地下鉄を利用する若者の多くが、無料で地下鉄を利用する高齢者に席を譲ることについて不満を感じても不思議はない。

しかも、一部の高齢者は若者が席を譲ることを当たり前と考えている。若者が席を譲るように大声を出したり、怒鳴ったりする。若者だって、仕事や学業で疲れているときもあり、体の調子が良くないときもある。そんな時には席に座ってゆっくりしたいだろう。だがそれを認めない高齢者がいる。いくら儒教思想が大事でも、席を譲ることを強いられると、高齢者のことが嫌になり、世代間の葛藤はさらに深まるだろう。

地下鉄の席を例に若者世代と高齢者世代の葛藤を説明したが、地下鉄以外の場所でも「最近の若者はだめ」だと言いながら、若者にやたらと説教をする高齢者が存在し、世代間の葛藤の一因になっている。若者は彼らを「コンデ」と呼び、一緒にいることをできる限り回避しようとする。「コンデ」とは元々親や教師を指す若者の隠語で、高齢者世代(広くは中高年世代)を意味する。彼らは、自身の経験を一般化して若者に考えや行動などを一方的に強要したり、自分の若い頃の自慢話ばかりをしたり、なんでも経験して分かっているように語る。もちろん、高齢者のすべてが「コンデ」ではない。しかしながら韓国社会における「コンデ」は、会社、電車の中、教会等、どこにも存在している。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story