コラム

韓国ではなぜ新型コロナ第2波のリスクが高まったのか

2020年06月05日(金)15時25分

なぜ「気の緩み」が起きたのか?

ワクチンや治療薬がまだ開発されず、世界的に感染が拡大しているのになぜ韓国では「気の緩み」が起きたのだろうか? その一つの原因は自粛期間が人々の予想以上に長かったことかも知れない。2月中旬に新興宗教団体「新天地イエス教会」における集団感染が発生し、大邱市を中心に感染が拡大すると、韓国政府は社会的距離の確保とともに自粛を勧告した。入学式や卒業式は中止または延期され、学校は再開できず授業はオンラインを中心に行われた。宗教団体、スポーツジム、カラオケ、クラブ、学習塾、インターネットカフェなど、人が集まりやすい施設には休業を勧告し、企業や会社員には在宅勤務を要求した。徹底的な検査や隔離措置、そして国民の協力により感染者数は少しずつ減少しはじめ、4月30日には1日の新規感染者数がゼロになった。人々の間には「もう、大丈夫だ」という意識が広がり、4月末から5月5日までの飛び石連休の間には約20万人の観光客が済州道を訪ねた。 

ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官は5月4日にブリーフィングを行い、5月6日から防疫レベルをそれまでの「社会的距離の確保」から「生活防疫」に切り替え、行動制限を緩和することを明らかにした。また、高校3年生は5月13日から登校を始め、他の学年は20日から1週間おきに3段階にわたって登校を許可すると発表した。韓国政府は「K防疫」の成果を海外に発信し続け、韓国国内では新型コロナウイルスを克服したという達成感と安堵感が広がった。

韓国政府が防疫レベルを「社会的距離の確保」から「生活防疫」に緩和することに決定した理由は、4月5日〜4月18日の2週間に比べて、4月19日〜5月2日までの2週間は、(1)1日の平均新規感染者数が35.5人から9.1人に減少したこと(2)集団感染の発生件数が4件と比較対象の2週間と変化がなかったこと(3)感染経路が不明な感染者の割合が3.6%から5.5%と大きな変化がなく安定していたこと(4)防疫網の中での管理比率(新規感染者のうち自己隔離状態で感染した人の割合)を80%以上に維持したことが挙げられる。

韓国政府が設定した緩和基準(1日の平均新規感染者数50人未満、感染経路が不明な感染者数5%未満、集団感染の数と規模の大きさ、防疫網の中での管理比率80%以上維持)をクリアしたのだ。

「生活防疫」で守るべきガイドラインとしては、 (1)体調が悪いときは3~4日間自宅で過ごす、(2)人との間には、両腕分の距離を置く、(3)30秒間手をしっかり洗う、咳をするときは口に手ではなく袖をあてる、 (4)1日2回以上の換気と定期的な消毒を実施する、(5)距離は離れても心は近くにいる、を国民に周知した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story