コラム

日本における外国人労働者受け入れの現状と今後の課題

2020年01月09日(木)11時55分

特定技能による受け入れ見込み人数は2019年4月1日から5年間で最大345,150人とされている。施行時は、宿泊業、外食業、介護業の3業種にて先行実施され、残る11業種でも準備が整い次第試験を実施する見込みである。実際、今年の4月には宿泊業、外食業、介護業の3業種において「特定技能1号」の取得に必要な第1回目の技能試験が行われ、合計で711人が合格(宿泊業で280人、外食業で347人、介護業で84人)している1。

今後の課題

今後、特定技能が拡大・定着していくと、日本にはより多くの外国人労働者が働くことになると思われる。しかしながら、外国人労働者がより安心して活躍できる社会を作るためには改善する点も多いのが事実である。

まずは外国人労働者が働く労働条件を改善する必要がある。ご存知のとおり、特定技能という在留資格で働く分野は、相対的に労働条件が厳しい業種や仕事が多い。政府は、少子高齢化により若い人口が減少する中で、このような業種や仕事には日本の若者が集まらないので、外国人労働者を受け入れ、人手不足の問題を解決しようとしている。最初は日本という国に憧れ、日本に来てくれるかもしれないが、労働条件が他の業種あるいは他の国に比べてよくないことがSNSなどにより分かると、政府の計画どおりに外国人労働者を確保することが難しくなる可能性も高い。

2番目は外国人労働者に対する差別の問題を解決する必要がある。残念ながら、日本には外国人労働者に対する差別やいじめ、パワハラが今も残っている。旅券の取り上げや恋愛・結婚・妊娠禁止といった人権侵害も起きている。その結果、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状になるケースもあり、最悪の場合は自殺に至ることもある。特に、アジア系の労働者に対する差別が多く、外国人の間では出身国によって日本人の「まなざし」が変わるという話まで広がっている。

3番目は悪質ブローカーを排除するための対策をより徹底的に行うことが大事である。以前から実施されてきた技能実習の場合、悪質ブローカーによる搾取が大きな問題になっていた。実習生は入国前の費用調達のため多額の借金を背負っている。日本に来るために渡航する前に、母国の送り出し機関(ブローカー)に多額の費用を支払っているからである。例えば、ベトナム人の場合、実習生として来日するためには少なくとも数十万円、多い場合100万円以上の費用がかかるそうである。実習生の多くは借金を返済するために、長時間労働や賃金の未払い、そしてパワハラ等があっても我慢するケースが多い。さらに、国内でも技能実習生の受け入れを仲介する監理団体が、不当に高額な費用を徴収するケースもあると報告されている。新しく導入した制度でも相変わらずブローカーと関わる問題は残されていると思われる。政府は、今後、送り出し国や国内の悪質なブローカーの活動を規制する対策を徹底的に行う必要がある。

――――――――
1 本稿は、日本生命の『福利厚生情報』2019年VOL.Ⅴに掲載された「日本における外国人労働者の現状と課題」を修正・ 加筆したものである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「イラン核協議は順調」、26日に3回目協

ビジネス

アルファベット第1四半期、売上高が予想上回る 広告

ビジネス

英中銀総裁「トランプ関税の影響注視」、英景気後退は

ビジネス

加藤財務相、「為替水準の目標」話題にならず 米財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story