コラム

文在寅政府の手厚い雇用・福祉政策は絵に描いた餅 財源なくして政策なし

2019年07月31日(水)11時50分

韓国の国会立法調査処は、2014年8月22日に、今後、出生率が2013年の出生率1.19のままなら、2014年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、2056年に4000万人になり、2100年には2000万人へと半減すると予想した。また、2136 年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。

2018 年の出生率が0.98であることを考慮すると、人口減少のスピードは上記の予測よりさらに速くなる可能性が高い。

社会保障拡大政策を推進、増える社会保障関連予算

一方、社会保障政策は今後も拡大路線が鮮明である。2018年9月に導入した児童手当は、その支給対象を拡大し2019年10月からは対象年齢が満7歳未満に拡大される。また、満65歳以上の高齢者に支給される基礎年金の給付額も引き上げられる。2019年4月からは所得下位20%の高齢者の基礎年金の給付額を既存の月25万ウォンから月30万ウォンに引き上げられており、今後所得下位70%の高齢者まで段階的に引き上げる予定である。

基礎年金の給付額を日本円に換算すると3万円程度で、高齢者が生活するためには十分ではない金額かも知れない。しかしながら、保険料を納めることにより受給権が発生する日本の国民年金受給者の老齢年金の平均年金月額が、2016年度末現在で5万5千円(基礎のみ・旧国年の受給者の場合は5万1千円)であることを考慮すると、保険料という収入なしで年金を支出せざるを得ない韓国政府の財政的な負担はかなり大きいだろう。

韓国政府は社会保障拡大政策を実施することに伴い、来年度予算を大きく増やした。2019年度予算案の一般会計総額は470.5兆ウォンで、2018年度の428.8ウォンに比べて9.7%も増加した。2019年度予算案の一般会計総額の対GDP比は24.8%で、日本の18.5%より高い。

その中で、保健・福祉(社会保障)・雇用関連予算額は2018年度の144.6兆ウォンから2019年度には162.2兆ウォンに12.2%も増加しており、一般会計予算の34.5%を占めることになった。福祉(社会保障)部門だけをみると72.4兆ウォンで、前年に比べて14.6%も増加しており、日本の一般会計予算の社会保障費増加率3.3%を大きく上回っている。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story