コラム

文在寅政府の手厚い雇用・福祉政策は絵に描いた餅 財源なくして政策なし

2019年07月31日(水)11時50分

一方、65歳以上の高齢者のうち、所得認定額が下位70%に該当する者に支給される基礎年金の最大給付額は2018年9月から月25万ウォンに引き上げられた。

韓国政府は、無年金者や低年金者を含め経済的に自立度が低い高齢者の老後所得を補完するために、2014年7月から既存の「基礎老齢年金制度」を廃止し、新しく「基礎年金制度」を導入・施行している。財源はすべて一般会計から賄われる。

急激な政策の展開が様々な問題を起こす

このような政策が問題なく実施・定着されると所得格差は改善され、国民はより豊かな生活ができるだろう。しかしながら、政策の効果がなかなか出てこない。

韓国統計庁が2018年11月22日に発表した「2018年7〜9月期家計動向調査(所得部門)」によると、世帯間の所得格差は過去最高水準に広がっている。全世帯を所得により5段階に分けたデータを確認したところ、所得最下位20%世帯の1カ月平均名目所得は131.8万ウォンで前年同期に比べて7.0%も減少した。

名目所得が減少したのは3期連続のことである。一方、所得最上位20%世帯の1カ月平均名目所得は前年同期に比べて8.8%増の973.6万ウォンと11期連続で増加した。低所得層の所得が減少した反面、高所得層の所得は増加した結果、所得階層間の格差はさらに広がった。

韓国政府の狙いとは裏腹に所得格差が広がっている理由としては低所得層の勤労所得が大きく減少した点が挙げられる。つまり、2018年7〜9月期における所得最下位20%世帯の勤労所得は47.9万ウォンと1年前に比べて22.6%も減少したことに比べて、所得最上位20%世帯の勤労所得は730.2万ウォンで11.3%も増加した。所得最下位20%の勤労所得が20%以上減少したのは、統計庁が関連統計を作成し始めた2003年以降初めてのことである。

一方、韓国政府は少子化対策の一環として2012年からは無償保育制度、最近は児童手当制度を実施しているものの、まだその効果が表れていない。韓国統計庁が2019年2月27日に発表した「2018年出生・死亡統計(暫定)」では、2018年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、以下、出生率)は、2017年の1.05を下回る0.98まで低下すると予想した。出生率が1を下回ることは関連統計を発表してから初めてだ。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story