コラム

いま「消費増税」に一利なし...まずは「過剰な優遇」受けてきた「聖域」の改正を

2022年11月08日(火)17時52分
増税イメージイラスト

ILLUSTRATIOV BY WENJIN CHEN/ISTOCK

<これ以上の財政悪化はリスクが高すぎるが、かといって経済成長が不十分な中での消費増税は税収不足とさらなる増税の悪循環を生むだけだ>

政府与党内で増税をめぐる動きが活発化している。10月26日に開かれた政府税制調査会では、委員から消費税の引き上げについて議論すべきとの意見が相次いだ。自民党の税制調査会においても法人増税に関する案が浮上しており、ここにきて、増税に関する話題を多く耳にするようになってきた。

税制調査会は政府と自民党にそれぞれ存在しており、時代によってその力関係は変わってきたが、政府税調と党税調の両方で増税に関する議論が出ているのは決して偶然ではない。今後3年間大きな国政選挙がなく、与党にとっては「黄金の3年間」と呼ばれている。この間に増税を既定路線にするもくろみがあると考えられ、政府・与党全体として増税に向けて動きだした可能性が高いだろう。

日本は一般会計予算の約半分を国債に頼るという、ある種の異常状態が続いている。財政の立て直しが必要であることは言うまでもなく、そのためには、歳入を増やすか、歳出を減らすか、あるいはその両方を実施するしかない。

歳出削減については、予算の約半分が社会保障や地方交付税交付金、防衛費など必須項目で占められている現実を考えると、厳しい決断をしない限り、歳出を抜本的に減らすことはほぼ不可能である。一方で歳入を増やす方法には、増税以外にも選択肢がある。

景気と税収は比例するので、経済が成長すれば自動的に財政は好転する。バブル崩壊以前、日本の財政は健全だったが、それは成長率が高く、税収が拡大していたからである。財政を立て直す最良の方法は経済成長であり、これが実現すれば状況は短期間で改善する(ドイツが圧倒的な健全財政を維持できているのは、成長が続いているからである)。

消費増税では悪循環に陥るだけ

経済が十分に成長しないなかで消費増税を繰り返せば個人消費が低迷するのは確実であり、これによって税収が増えず、さらに増税を行うという悪循環に陥ってしまう。

これ以上、財政を悪化させることは極めてリスクが高く、今後も際限なく国債を増発するという選択肢はあり得ない。そのために、最も大事なことは、成長を実現し、増えた税収を活用して財政を立て直すという視点である。現在の日本において、このシナリオを描ける唯一の手段は、消費増税ではなく法人税の抜本改正だと筆者は考える。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米カーライルの新たな日本投資特化ファンド、過去最大

ビジネス

中国新興EVの小鵬汽車、第2四半期の納車台数見通し

ワールド

乱気流に見舞われた航空便乗客ら、シンガポールに到着

ワールド

ロシア、米政府衛星の軌道に宇宙兵器投入=米宇宙コマ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story