コラム

「人への投資」をケチってきた日本の給料を、岸田政権「新しい資本主義」が上げる?

2022年06月22日(水)18時16分
岸田文雄首相

RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS

<岸田政権が唱える「新しい資本主義」の共通項は「人への投資」か。日本が出遅れてきたこの分野に乗り出すことには、確かに大きなメリットがあるが>

岸田政権が提唱する「新しい資本主義」の輪郭がおぼろげながら見えてきた。2022年6月7日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)には、デジタル化を前提としたスキルアップ支援策が盛り込まれるなど、人への投資という方向性が示された。

これまでは新しい資本主義は曖昧で捉えどころがなく、いわば「鵺(ぬえ)」のような存在だったが、これが人材投資という形で再定義されるのであれば、それなりに意味のある政策となるだろう。

岸田首相は自民党総裁選の段階から、「新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張しており、所得の再分配を政策の中心に据える方針を示してきた。だが具体的にどのように再分配を行うのかについては明確に示されず、当初、議論の俎上に上っていた金融所得課税については、株価への影響が大きいとして棚上げされた。

ついに見えてきた「新しい資本主義」の方向性

5月に入って岸田氏は訪問先のイギリスで、突如「資産所得倍増計画」を提唱。少額投資非課税制度(NISA)など優遇税制の拡充によって個人金融資産を貯蓄から投資に誘導するなど、課税強化とは正反対の方向性を示した。

投資家や企業に厳しい、リベラル色の強い所得再分配政策が次々と出てくることを警戒していた経済界にとっては朗報だったかもしれないが、「貯蓄から投資へ」というのは日本政府が過去30年にわたって提唱してきた政策である。目新しさはなく主張が見えないという点では、さらに状況が悪化したとも言える。

新しい資本主義の方向性が徐々にはっきりし始めたのは、皮肉にも通常国会が会期末を迎える6月に入ってからである。参院選を控え、岸田政権は「骨太の方針」や「デジタル田園都市国家構想基本方針」を相次いで閣議決定し、ようやく具体的な政策を提示し始めた。

過去の政権と同様、各省が予算要求したい項目を総花的に羅列した印象は拭えないものの、両者の共通項を抜き出せば、「人への投資」ということになる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story