「人への投資」をケチってきた日本の給料を、岸田政権「新しい資本主義」が上げる?
RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS
<岸田政権が唱える「新しい資本主義」の共通項は「人への投資」か。日本が出遅れてきたこの分野に乗り出すことには、確かに大きなメリットがあるが>
岸田政権が提唱する「新しい資本主義」の輪郭がおぼろげながら見えてきた。2022年6月7日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)には、デジタル化を前提としたスキルアップ支援策が盛り込まれるなど、人への投資という方向性が示された。
これまでは新しい資本主義は曖昧で捉えどころがなく、いわば「鵺(ぬえ)」のような存在だったが、これが人材投資という形で再定義されるのであれば、それなりに意味のある政策となるだろう。
岸田首相は自民党総裁選の段階から、「新自由主義的政策が、持てる者と持たざる者の格差と分断を生んだ」と主張しており、所得の再分配を政策の中心に据える方針を示してきた。だが具体的にどのように再分配を行うのかについては明確に示されず、当初、議論の俎上に上っていた金融所得課税については、株価への影響が大きいとして棚上げされた。
ついに見えてきた「新しい資本主義」の方向性
5月に入って岸田氏は訪問先のイギリスで、突如「資産所得倍増計画」を提唱。少額投資非課税制度(NISA)など優遇税制の拡充によって個人金融資産を貯蓄から投資に誘導するなど、課税強化とは正反対の方向性を示した。
投資家や企業に厳しい、リベラル色の強い所得再分配政策が次々と出てくることを警戒していた経済界にとっては朗報だったかもしれないが、「貯蓄から投資へ」というのは日本政府が過去30年にわたって提唱してきた政策である。目新しさはなく主張が見えないという点では、さらに状況が悪化したとも言える。
新しい資本主義の方向性が徐々にはっきりし始めたのは、皮肉にも通常国会が会期末を迎える6月に入ってからである。参院選を控え、岸田政権は「骨太の方針」や「デジタル田園都市国家構想基本方針」を相次いで閣議決定し、ようやく具体的な政策を提示し始めた。
過去の政権と同様、各省が予算要求したい項目を総花的に羅列した印象は拭えないものの、両者の共通項を抜き出せば、「人への投資」ということになる。