コラム

派閥相乗りの岸田政権、キシダノミクスに新鮮味も実効力も期待できない

2021年10月05日(火)19時36分
岸田文雄首相

EUGENE HOSHIKOーPOOLーREUTERS

<令和版「所得倍増計画」を提唱するも、具体的な中身は見えない岸田新政権の経済政策は、これまでと変わり映えしない内容になりそう>

臨時国会で首班指名が行われ、岸田文雄自民党総裁が第100代首相に選出された。岸田氏は選挙戦を通じて「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と述べ、令和版「所得倍増計画」を提唱したが、具体的な中身ははっきりしていない。

実質的に総裁の座を争った河野太郎規制改革担当相が脱原発や年金制度改革など明確な改革プランを打ち出していたのとは対照的だ。派閥相乗りでの勝利だったこともあり、岸田内閣は折衷案的な政策運営が避けられないだろう。

今回の総裁選は事実上、岸田氏と河野氏の一騎打ちに近い状況となった。岸田氏は各派閥の支持を広く取り付ける戦略であり、一方の河野氏は事実上の脱原発や年金制度改革など、従来政治からの脱却を訴えており、政策的には分かりやすい構図となった。

岸田氏は、新自由主義的政策との決別という形で改革を強調したが、新自由主義的という言葉は曖昧で、人によってその使い方はさまざまである。小泉政権的な規制緩和路線に否定的という意味であれば、過去の自民党政治との決別というより、むしろ従来路線の踏襲と考えたほうが分かりやすいだろう。

実際、岸田氏は所得倍増計画と称して、看護師・介護士などの賃金アップや教育費・住居費の支援などを掲げている。これらのテーマは、過去の政権でも議論されており、岸田政権が初めて打ち出した政策ではない。

今後の議論の焦点は年金制度改革か

アベノミクス以降、継続している量的緩和策についても、基本的に2%の物価上昇率目標を維持するとしており、大きな変更は実施しない。菅政権は安倍政権の後継として誕生したものの、地銀改革やデジタル庁の創設、脱炭素政策への転換など、小泉改革的なメニューを数多く提示してきた。岸田政権では、地銀改革や脱炭素政策の強化など、賛否両論となる政策は回避するはずなので、具体的な経済政策は、後期の安倍政権に近い形となるだろう。

良くも悪くも、大きな変化のない政権ということになるが、総選挙も控えて議論となりそうなのが年金制度改革である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story