コラム

高度成長期って何? バブル世代も低成長時代しか知らない

2016年03月15日(火)15時41分

中高年社員と若手社員との世代間ギャップがよく話題になるが、実はバブル世代の上司もゆとり世代の若者たちと同じような経験をし、同じような価値観を持っている。誤ったイメージが蔓延するのはなぜなのか Nicolas McComber-iStock.


〔ここに注目〕GDP成長率の推移

 ビジネス誌を眺めてみると、中高年社員と若手社員との世代間ギャップに関する記事を多く目にする。中高年社員が、最近の若手社員は仕事に対する情熱に欠けていると失望する一方、若手は若手で、上司が古い価値観を押し付けてくると迷惑顔だ。こうした世代間ギャップは、いつの時代にも共通する出来事なのだが、よく観察すると興味深い事実が浮かび上がってくる。

バブル世代の社員は今の若手社員にそっくり

 あるビジネス誌の記事では、「ゆとり世代」あるいは「さとり世代」とも称される今の若者について、識者の発言を引用する形で「(今の時代は)高度経済成長期のように働く動機が湧きづらい傾向にある」と分析していた。中高年世代は「高度成長期」を謳歌した世代であり、右肩上がりの成長が当然という意識を持っている。これが若手との世代間ギャップの主な要因になっているというのは、社会の共通認識となっているようである。

【参考記事】「団塊、団塊ジュニア、ゆとり」 3世代それぞれの人生の軌跡

 では、ここで問題。以下は、ある若手社員の発言なのだが、いつの時代の発言だと思われるだろうか?

「(上司たちは)夜9時、10時まで会社にいる。まるで労働基準法のない世界ですよ」
「(上司たちは)「昔は親兄弟からも契約を集めてノルマを達成した」と説教ばかりする」
「(仕事のせいで)子供にも会えないというのはおかしいと思う」

 これは今からちょうど30年前、バブル経済がピークに向かい始める1986年に朝日新聞に掲載された新社会人に関する記事からの引用である。発言の前後を読まなければ、今の若者の主張とそっくりである。同じ記事で、ある中高年社員は、飲み会の席で上司や先輩に遠慮しない若手に対して「礼儀を知らない」と苦言を呈している。当時の中高年にとって彼等はまったく理解できない存在であり「新人類」などと呼ばれていた。

 上の世代から「常識がない」「プライベートばかり優先する」と批判されていた新人類たちも、今では50歳前後となっており、そのまま会社勤めをしていれば、まさに中高年社員として若手社員との世代間ギャップに悩んでいるはずである。

【参考記事】日本の「世代間対立」に出口はあるのか?

 バブル期のビジネス誌を見ると「高度成長期のような精神論だけでは最近の若者はついてこない」といった記述が数多く見られ、今とまったく同じ世代間ギャップが存在していたことをうかがわせる。当時の若手社員も今と同様「高度成長期」を過ごしてきた中高年世代の精神論が受け入れられなかったのである。こうした状況は統計データからも読み取ることが可能だ。

 日本生産性本部と日本経済青年協議会の調査によると、2015年に入社した新社会人の中で「人並みに働けば十分」と回答した人は53.5%と過去最高水準だった。この結果だけを見ると、最近の若者は「ゆとり世代」だという話になりがちだが、過去の調査結果を見るとそうでもない。

 バブル末期である1990年にも、やはり人並みに働けば十分との回答が50%を超え、過去最高水準を記録していた。つまりバブル期に入社し、現在、管理職となっている中高年社員は、新入社員当時、今の若手社員とまったく同じ感覚を持っており、仕事よりもプライベートを重視したいと考えていた。「高度成長期」を振りかざす上の世代との価値観の違いに悩んでいたのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売

ビジネス

NY外為市場=ドル、低調な米指標で上げ縮小 円は上

ワールド

ドイツ、ロシアの偽情報拡散に警告 23日の総選挙控

ワールド

トランプ氏、5月にモスクワ訪問せず ロシア・ウクラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story