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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
日本の「世代間対立」に出口はあるのか?
野田内閣が消費税率アップへと決意を深める中で、連立政権を構成する国民新党は、税率アップに反対を貫いて連立から離脱するのか、残留するのかで、分裂の様相を呈してきました。一見すると、永田町の醜い政争の一種に見えますが、税率アップに反対の亀井代表と、賛成に回ろうとしている下地氏などの綱引きの背景にあるのは一種の世代間対立だと思われます。
消費税率アップというのは、所得税とは違って、現役世代にも年金生活世代にも共通の負担を強いるものですが、今後に劇的な収入増や資産増の期待できない年金生活世代には、負担感や不安感が強く感じられるわけです。一方で、国家の財政破綻や通貨の大幅下落による社会の混乱というような何十年も先にあるかもしれない危険性については、高齢者にはダイレクトな危機感は薄いのです。
これは、小沢グループの姿勢にも当てはまる一方で、例えば現役世代の利害を代表している大阪の橋下市長が増税に前向きであるのも、こうした構図からの説明は可能です。
世代間対立というと、引退世代と現役世代の対立だけではありません。今大変に大きな問題になっている原発再稼働については、例えば小さいお子さんがいて、お子さんの健康への影響に関する直感的な危機意識を前提として持ってしまう世代は再稼働絶対反対になるのは仕方がないようです。一方で、10代から20代前半の進学や就職の問題に直面したお子さんを抱えている層は、エネルギー危機と円安に挟撃されて日本経済が大破綻しては困るわけで、この問題へのトーンは違って来るようです。
先程申し上げた橋下市長の場合は、経済政策はグローバリゼーション適応推進の構造改革路線であるのに、エネルギー政策は脱原発なわけで、一見すると節操のないポピュリズムの極致に見えます。ですが、橋下市長には10代のお子さんもいれば、まだ幼いお子さんもいるということを考えると、構造改革プラス脱原発という組み合わせも、良し悪し以前の問題として、恐らくは自然な発想としてあるのだと思います。
いずれにしても、日本という社会は、人口ピラミッドが上にひろく下にせまい「倒れそうなカタチ」をしていることに加えて、産業構造の急速な変化に直面しているわけで、こうした世代間対立というのは避けることはできません。そうであるのならば、見えないところで陰湿な対立を続けるよりは、もっとシャープな対立に持って行って論点を整理することがあってもいいように思うのです。
この問題に関しては、高齢者の多くが「たまたま日本経済が好調な時代」に現役であったというだけで資産を築いているのは不公平だという議論があります。ですが、彼等の多くは健康面の不安を抱えていますし、高度成長やその後のバブル前後の激しい経験から来る疲労感を今でも抱えているように思います。彼らがそう簡単には世代間の富の移転には応じないということには、一理はあるように思います。
その一方で、一部の高齢者の間にある、自分の死後の日本については「少子化でも良いじゃないか」「経済活動が縮小してもいいじゃないか」という考えには違和感を感じます。貧しくても自給自足で自然と共生できれば、それで良いのであって、自分が死んだ後の日本には美しい自然が残ればそれでいいという感覚は、様々な形で現在の日本にはあるように思います。
ですが、私はこうした発想はファンタジーだと思います。国が貧しくなるということは、人々を生きるためには手段を選ばないところへと追い詰めるのです。エネルギーが作れず買えない中では、美しい自然の維持も難しくなるでしょう。人々の幸福感は低下するに決まっています。国際競争力の維持もできません。多くの人間が有機農業と伝統工芸に従事して、人口は5000万に減ったけれども、みんながニコニコしているような社会というのは有り得ないと思います。
それはともかく、政局は流動的になって来ました。すぐにも解散があるとは思えない一方で、多くのグループによる駆け引きは激化するでしょう。その中で、この世代間の対立という問題を、1つの軸として追いかけてみれば、対立の構図が浮かび上がってくるように思います。
<お知らせ>
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*明日31日(土)22時~NHK-BSの「地球テレビ100」で日本のハイテク産業の競争力についてお話します。
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