コラム

南海トラフ巨大地震で日本を失わないために

2024年02月20日(火)15時40分
輪島の孤立した集落に救援物資を届ける自衛隊員

輪島の孤立した集落に救援物資を届ける自衛隊員(1月7日) JOINT STAFF OFFICE OF THE DEFENSE MINISTRY OF JAPANーHANDOUTーREUTERS

<能登半島震災のインフラ復旧の遅れを見ると、将来の震災の救援・復興支援体制は大丈夫かと不安になる>

能登半島地震で亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、一日も早い復興をお祈りする。

日本経済を破壊しかねない「南海トラフ」大地震が数十年以内に起きる可能性が高まっているだけに、これを機に地震と国運の関連を考えてみたい。

1755年11月、ポルトガル沖の海底で起きた大地震は、津波と火災でリスボンを破壊し、約6万人の死者を出した。16世紀にはスペインと世界を二分する勢いのポルトガルだったが、17世紀に新興のオランダ、イギリスに香辛料貿易を牛耳られ、一時スペインに併合されて勢いを失い、この大地震でとどめを刺された、と言われる。

 
 

日本も、ものづくり、終身雇用、滅私奉公の大企業を核とする経済モデルを脱却し切れないうちに、GDPの順位がずるずると落ち始めた。その上、南海トラフ大地震が起きて、原発や企業間のサプライ・チェーンが破壊されたらどうなるのか。

そこで思い立って、チャットGPTに聞いてみる。「世界の歴史で、地震のために滅びたメジャーな文明はあるかい?」。5つほど挙げられた回答の中で、もっともだと思ったのは、クレタ島のミノア文明だけ。紀元前1600年頃、地中海サントリーニ島の大噴火で起きた津波などで破壊され、その後放置された。つまり、よほどの地形破壊がない限り一つの大都市、文明が地震だけで消えることはない。江戸幕府も1855年の安政大地震で滅びたのではない。

だが、南海トラフ大地震が起きた場合、救援・復興支援体制は大丈夫だろうか? 膨大な人員、資材、資金が必要になる。能登半島地震は個々のケースの報道ばかりで全体像が分からないのだが、現地にはトイレの問題から始まって、道路が復旧しないから救援物資が届かない、重機が来ない、ボランティアも来られない、電気や水道が復旧しない、という不満がある。

断層地帯の原発は閉鎖の検討を

日本で地震のような天災が起きた場合、災害対策基本法を根拠に内閣府が関係省庁を調整する。今回、内閣危機管理監の発表資料を見ると、防衛省・自衛隊から全国知事会、消防、日本医師会、日本水道協会まで、人員や資材、バキュームカーの派遣等々、至れり尽くせりに見える。

しかし今回道路の修復が肝要だったのに、それに最も適した自衛隊の施設科(工兵)の人員派遣は十分だったのだろうか。そもそも今回、内閣危機管理監は入院中で、石川県知事は元日で東京の自宅におり、リーダーシップと危機感に欠けていた。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story