民主主義先進国、イギリスの落日
就任から45日の退任表明で英史上最短の政権となった HENRY NICHOLLSーREUTERS
<本家本元のイギリスで、近代民主主義はすでに限界を迎えつつある>
イギリスの迷走に世界が口をあんぐり開けている。トラス首相は減税を目玉に保守党党首・首相に選ばれたのに、その減税政策で金融市場が崩落の兆しを見せると、あっさり撤回。自分ではなく財務相を更迭してしのごうとしたが、閣内からも反発が出て、ついに辞任と相成った。2カ月で2人の首相が辞任する体たらくだ。
英国内では早期の総選挙を求める声が高まっている。2010年に、それまで13年続いた労働党政権が国民に飽きられ、保守党が政権を獲得して以来約13年。13年というのは、英政権にとって魔の数字なのかもしれない。
イギリスは近代西欧で発達した民主主義の本家本元だ。18世紀まで英国議会は裕福な地主層=ジェントリーが支配したが、19世紀になると産業革命で都市人口が増える。工場労働者の賃金は次第に上昇して多数からなる中産階級を形成し、彼らは選挙権を要求する。
選挙・被選挙権は次第に拡大されて、第1次大戦末期の1918年には、成年男子は全て選挙権を持つ「普通選挙」が成立した。近代民主主義は、産業革命が社会全体の生活水準を底上げし、教育水準も上げたことで根を下ろしたのである。
ところがその後、イギリスは民主主義の劣化でも世界の先頭を切るようになる。第1次、第2次の世界大戦で徴兵制を導入したことの見返りに、「ゆりかごから墓場まで」の手厚い社会保障制度を作ったが、これで国家は国民から税と兵を搾り取る主人的存在から、国民に奉仕する使用人的存在に落ちてしまった。
ポピュリズムが民主政治の定番に
悪いことに戦後のイギリスは工業の競争力を失い、高賃金の職場が大量に失われた。中産階級の多くは生活に不満を持つ層に転化する。与党も野党もこの不満層を分配への空約束、つまりポピュリズムであおっては票を稼ぐのがイギリス、そしてほかの先進国での政治の定番となった。
だがそれも限界だ。イギリスの国債発行残高は、GDPの1年分を超える(日本は2.6倍だが)。何をやろうとしても、今回の減税策の失敗が如実に示すように限界があるのだ。そして2015年の総選挙でやったように、EU脱退で選挙民を釣ることももうできない。
イギリス政治、いや先進民主主義国の政治は共通した問題を抱える。それはアメリカの共和党・民主党、イギリスの保守党・労働党というような、従来の仕分けが有効でなくなっているということだ。
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