自称「大国ロシア」の没落が変える地政学──中国の見限りと寝返りが与える影響
「中ロ同盟は永遠」ではない
ロシアの地位が沈む一方であることは、世界情勢にどういう影響を与えるだろう。わがロシアの友人には悪いが、その答えは「さほど影響はないだろう」となる。ソ連崩壊以来、ロシアの存在は「マージナル(限定的)」なのだ。
経済力がないし、自由・民主主義といった明るい価値観も持っていないから、世界を前向きに変えることがない。
ロシアがやっているのは、アメリカがやろうとしていることを邪魔しては自分の存在をアピールし、その邪魔をやめることで世界から感謝を受けるという、手品まがいのいかさま外交だ。
国連の安全保障理事会の常任理事で拒否権まで持っているから、邪魔できることは多い。そしてロシアと国境を接する国は非常に多いので、介入できる事案も多い。
08年のジョージア侵攻、14年のクリミア併合、15年のシリア介入──プーチンの頭の中ではいずれも「アメリカが仕掛けてきたから反撃」したものだ──など、プーチンのロシアは「ロシアは大国」イメージを世界に刷り込んだ。
米欧の反プーチンの大合唱が、彼を実物以上の怪物にしてみせる。しかしその実体は、相手が押してきて初めて技を繰り出せる、「弱者の柔道」なのだ。
プーチンは、NATO諸国や日本のほうを向いてよく言う。
「アメリカに言われたことを断れない国には主権がない。自分で自分のことを決められない国は相手にできない」と。
しかし彼には大事なことが見えていない。ドイツや日本はアメリカがその巨大な市場を提供し、安全を保障してくれるからアメリカの要請を聞き入れる。プーチンはアメリカが同盟国を力で脅しているのだと思い込んでいるが、それは自分が旧ソ連諸国にそのように接してきたからだろう。
ロシアは旧ソ連諸国にとっては出稼ぎの場、そして割引価格での石油を提供できるが、西側は資本と技術──つまり将来への発展の芽──を提供できる。そして、アフリカや東南アジアの国々にロシアが石油を提供しようとしても、ろくなタンカーがない。
今、ロシアが提供できるのは、ワグネルなどの民間軍事会社が提供する傭兵くらいのものだが、これも扱いが難しい。中央アフリカ共和国には、ワグネルが1000人ほどの要員を送り込んでいるが、彼らは現地の金、ウラン、ダイヤ資源に目を付け、何をするか分からない。
だから、これからのロシアは、外部に向かって何かをやって問題を起こすよりも、自身が分裂、あるいは侵略を受けて問題を起こす存在になっていくのかもしれない。ロシアのカフカス地方は独立機運を抱えているし、イスラムテロ勢力はロシアを標的にし得る。ロシアのイスラム人口(大多数は穏健な信者だ)は推定で1000万人を超える。
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