コラム

自称「大国ロシア」の没落が変える地政学──中国の見限りと寝返りが与える影響

2022年10月21日(金)16時37分

221018p24_KTO_03.jpg

タジキスタンでの共同軍事訓練に参加する米州兵たち(今年8月) TERRA C. GATTIーU.S. ARMY NATIONAL GUARD

ユーラシアに登場したライバル

加えてこの頃は、経済力を付けたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も、カフカス(コーカサス)と中央アジアはオスマン帝国の故地とばかり、政治・経済・軍事面で関与を強めている。

彼は、2020年秋のアルメニア・アゼルバイジャン間の戦争で、同族のアゼルバイジャンに肩入れし、後者をほぼ全面的に勝利させている。今や両国間の調停は、ロシアの独壇場ではなくなった。

アゼルバイジャンは9月13日にも、アルメニアとの休戦地域で攻勢に出て、200人以上の戦死者を双方に出している。この地域にはロシアの平和維持軍も駐留しているはずなのだが。

トルコは、ウクライナ・ロシア間でも調停役を買って出ているし、SCOへは本格的な関与を強め(まだ正式加盟国ではない)、「ユーラシア国際政治の正式会員」的な地位を固めている。

プーチンは7月中旬、イランの首都テヘランに飛び、イラン、トルコとの三者首脳会談を演出してみせた。「見ろ。ロシアにはこういう有力な国が付いているのだぞ」と言いたかったのだろう。

しかしそのイランにとっては、アメリカとの核合意復活のほうがはるかに大事で、それに成功すればイランの原油・天然ガスが世界市場に大量に出回る(すると、価格は下がってロシアはひどい目に遭う)。

テヘランでプーチンはトルコのエルドアン大統領との二者会談もアレンジしたが、いつもは会談相手を待たせることで有名なプーチンが、今度はエルドアンに待たされて、もじもじするさまを世界中にテレビ放送された。ここまでロシアの立場は低下している。

■【動画】カメラの前で1分近くも手持ち無沙汰で待たされて、もじもじするプーチン

アメリカはこれまで、ユーラシアの内陸部には真剣な関与をしてこなかったが──カザフスタンの原油以外にめぼしい利権はないし、軍事物資はこの内陸に運び込みにくい──、8月中旬にはタジキスタンで行われた共同軍事演習に、100人弱の人員と装甲車、攻撃ヘリコプターなどの装備で参加している。

恐らく、昨年アフガニスタンから撤退した時、重装備の一部をタジキスタンに預けておいたのだろう。

タジキスタンには以前から、ロシア軍1個師団が常駐してアフガニスタン方面からの脅威に備えている。この共同演習にウズベキスタン、カザフスタン、キルギスの中央アジア諸国は参加しているが、ロシアと中国は呼ばれていない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story