コラム

自称「大国ロシア」の没落が変える地政学──中国の見限りと寝返りが与える影響

2022年10月21日(金)16時37分

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ロシアの後釜を狙う中国の習近平主席がカザフスタン前大統領と会談(2019年) MADOKA IKEGAMIーPOOLーREUTERS

例えばアフガニスタンのタリバン暫定政権は、アメリカに凍結された前政権の資金を取り戻すためにアメリカとの関係打開を至上の課題とし、ロシアとの関係は放置している。

湾岸諸国やイスラエルは、数年前までは、アメリカの関与を引き出すためか、ロシアとの関係をことさら緊密にしてみせていたが、バイデン米政権がこれらの国への関与を減らすと、ロシアとの間のやりとりもめっきり減らしている。

ロシアはエネルギー部門を除いて途上国に投資をする能力がなく、西側から先端半導体を入手できなくなって以降は兵器の水準も低下する一方である。だからロシアは、権威主義・非民主主義諸国が、アメリカに政権を転覆されないよう、玄関に貼っておく護符以上の意味がない。

しかもロシアと国境を接する国々にとって、ロシアはいつ攻めてくるか分からない、怖い存在になっている。その恐怖を感じているのはベラルーシ(既にロシア軍の常駐を実質的に許しているが)、ジョージア(グルジア)、アゼルバイジャン、カザフスタンなど多数ある。

ロシアと約7600キロもの長大な国境を有するカザフスタンは、ウクライナ戦争でロシアの肩を持たないとして、ロシアのマスコミ・識者から「総口撃」を受けている。

カザフスタンは、前記の3月の国連総会決議で棄権した上(ロシアにしてみれば反対してほしかった)、西側のロシア制裁に実質的に加担する姿勢を示しているからだが、これはほかの中央アジア諸国も似たり寄ったり。

これらの国にしてみれば、旧ソ連の仲間であるウクライナに斬り付けたロシアが、目を血走らせながらあまり切れないナイフを持って、そこらを徘徊しているのを見ているような気分だろう。

広いユーラシア大陸で、ロシアは長らく大きな顔をしてきた。しかし、長い歴史の中でそんなことはほんの一瞬。古来、この遮るもののない広原では、さまざまの勢力が入り乱れて興亡を繰り返してきた。

1991年のソ連崩壊後、中国が急成長して「一帯一路」を標榜。その資金力で多くの国をなびかせた(心服はさせていない)。この頃では、中国は民間の警備会社を先頭に立て、中央アジア地域に安全保障面で何か役に立てることはないかと聞き回っている。

9月14日、習近平(シー・チンピン)国家主席はカザフスタンを公式訪問した。15日からウズベキスタンで開かれるSCO首脳会議に出席する途上であったが、ロシアにしてみれば、カザフスタンに手出しをしにくくなる。

中国の経済力が、中央アジアでは大きな政治力として目に見えるようになった転機であった。中央アジアでの政治・安全保障問題はこれまで、ロシアの独壇場だったのだが。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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