コラム

世界がいま「文明逆回転」に舵を切りはじめた

2020年03月05日(木)16時40分

中国も言わずもがな。前進する経済・社会の中で、習近平(シー・チンピン)政権は永楽帝もどきの帝国主義と毛沢東的社会主義への逆櫓をこぎ、トランプと新型肺炎にひっくり返される寸前だ。このままでは人材と資本の国外流出が始まり、国内統治は分裂しかねない。

日本にいても、新型肺炎のせいで「発展」や「進歩」のはかなさ、もろさがしみじみと身に染みる。ここに金融危機が重なれば日本のGDPは10%近く下がるだろう。中国とのサプライ・チェーンが乱れることで、消費財のいくつかは店の棚から消え、インフレがやって来る。

世界史はまだ、工業化の恩恵がグローバルに波及していく過程にあるが、その中で格差が広がると持たざる者の不満が増大し、ポピュリズムや強権政治、あるいはテロの病を生む。新型肺炎はいずれ収まるだろうが、格差が生むきしみは止まらない。今は大国が軒並みおかしくなる稀有な時代だ。

日本人は、しばらく鼻を塞いで寄せる波をくぐる覚悟が必要になるだろう。欧米が強権政治の方向に転んでも、自国の民主主義と経済力は保持する。その間、「国」という防護装置の重要性は増す。強権化しないよう、叱正しつつ使っていくべきだ。

<本誌2020年3月10日号掲載>

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2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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