コラム

トランプ栄えて国家は滅ぶ──2025年の世界を予測する

2018年07月21日(土)14時20分

トランプ(右)・プーチン両首脳で米ロ関係は緊密に?(17年7月) Carlos Barria-REUTERS

<米国民の支持でトランプ政権2期8年も現実的に......国際社会は米ロ連携と米中対立を経て世界統一へ?>

トランプ米大統領はイラン核合意からの離脱、米朝首脳会談、対中関税引き上げ、そして米ロ首脳会談と、賭けの要素が強い政策を次々と実行し始めた。

貿易赤字を基準に「敵味方」を定め、同盟関係さえも経済での取引道具とし、国外紛争は金がかかるので放り出す。そのやり方は分かりやすく、米大衆の支持を得ている。民主党はトランプを批判するだけで、反対票を広くまとめられる政策や魅力ある大統領候補を打ち出せない。

アメリカでは極端な政策には必ず抑えが利いてくるといわれてきたが、今やトランプをいさめる側近はほぼ絶滅。共和党支持者の9割近くが支持しているトランプ人気に乗って、同党議員は秋の中間選挙で勝つことにきゅうきゅうとしている。

このままいけば、2期合計8年間。いや8年も待つことなく、1期目の終わりに世界は変わり果てた姿になっているだろう。そうした近未来をシミュレーションしてみる。

まず危ういのが、第二次大戦後にできた世界の基本的な枠組みだ。政治面では国連、安全保障面ではNATOのような同盟体制、経済面ではIMFやWTOなどの国際機関だ。これらは形式的には維持されても空洞化し、G7は消滅するだろう。

「今日の友は明日の敵」

「民主主義か専制か」というイデオロギー対立は薄まり、19世紀後半のヨーロッパのように「今日の友は明日の敵」と列強が提携相手をご都合主義で次々と替える時代となる。

大国関係では米ロが最も緊密になる。ロシアに対外拡張する実力はなく、米経済の脅威にもならないからだ。アメリカは来年度国防予算を13%増額する構えを見せている。その増額分だけでロシアの年間国防費全額にほぼ等しく、その多くは核兵器の最新鋭化や米本土の核防衛強化に向けられる。ロシアが核ミサイルを多数保有しようが、こうして抑止しておけば手に負えない敵ではない。

米ロが手を握れば、中ロ関係はその分薄まる。しかし、アメリカに経済面で圧迫された中国は成長力を失い、ユーラシアでロシアの利権を侵食する力は弱まるので、中ロ関係は対立にまでは至らない。

ロシアが脅威と見なされなくなりNATOが形骸化するとしても、ヨーロッパは独仏を核として大きな力を維持していく。しかしそれは、アメリカに対抗して世界を仕切るだけの力を持つものにはなるまい。

対立要素が最も大きいのは米中関係だ。経済対立が台湾などをめぐる軍事対決に至ると、日本は難しい選択を迫られる。アメリカ側に付き過ぎれば中国から武力攻撃を食らい、距離を置き過ぎればアメリカからしっぺ返しを食らう。

それでもトランプは日本を手放さない。在日米軍基地は太平洋戦争の戦死米兵16万人の血であがなった戦果。しかも今や年間2000億円以上もの日本の「思いやり予算」で支えられるお得なディールであり、米軍が東アジアでにらみを利かし中国と対峙していく上では不可欠だ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story