コラム

単刀直入さと英語とはったり、河野外交は官邸主導を変えるか

2018年01月20日(土)12時30分

ヨルダンの首都アンマンで外相会談に臨む河野太郎(昨年12月) Muhammad Hamed-REUTERS

<日本的誠実さが売りだった岸田前外相と対照的な新路線――自民党総裁選前の「ライバル」躍進に安倍首相の胸中は>

この5年の日本外交で、安倍晋三首相と岸田文雄外相のコンビはよくやってくれた。小泉政権後の混乱の時代に疎遠になった世界との関係を、回復できたからだ。

しかし安倍・岸田外交の間、重要な隣国の中国、韓国との関係はしっくりいかなかった。世界は中国マネーに目がくらみ、中国に盾突く日本をうるさがる。

また、安倍首相は外遊に日本の企業代表を大勢連れて回るなど、外交を国内での点数稼ぎに使う面が強かったので、日本で大きく報じられても世界で広く関心を引くことはなかった。

こうして、日本が世界でどんどん見えなくなる傾向には歯止めがかからなかった。

昨年8月に安倍首相と河野太郎外相のコンビが登場し、日本外交に新味をもたらしている。岸田前外相は日本的な誠実さで、多数の相手と信頼関係を築いたが、河野外相は留学経験もあり、欧米的に単刀直入、相手の懐に飛び込む。並の外交官を上回る英語とはったりを利かせた明瞭なメッセージを発する点でPR能力が高い。

これまで一人で世界中のシンポジウムを渡り歩いていたからだろう。環境や中東などどんな問題でも当事者の琴線に触れることを目ざとく見つけ、日本が何をできるかをポンと言うので、相手の頭に「日本」が前向きの形で強く刷り込まれるのだ。

経済援助より効果的外交

河野外相は就任早々、世界を駆け回り、中東外交に力を入れると宣言した。筆者は「日本があの海千山千の中東で何ができるのか」と思ったが、早速チャンスが訪れているようだ。

昨年12月6日にトランプ米大統領は、「エルサレムをイスラエルの首都と認める」と宣言し、世界で総スカンを食った。18日の国連安全保障理事会は、米国に撤回を求める決議を上程。安保理議長国であった日本までが決議に賛成したのだ。

いくら英仏なども賛成に回ったと言っても、これまでの日本の対米配慮過剰の外交からは180度転換の大バクチ。その割にトランプは日本や欧州諸国に怒りを見せていない。

この騒ぎの中、河野外相は中東を訪問し、25日にはイスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談。両者の和平協議再開のため、環境整備に尽力する考えを伝えた。このとき同外相は「アメリカを含めた四者会合を東京で行うことを打診した」との報道があった。これに対し、菅義偉官房長官はコメントを避けたが、この思い付きは案外うまくいきそうだ。

トランプはエルサレムをイスラエルの首都と認めるという声明を出した同じ日に、「米大使館のエルサレム移転を半年延期する」という行政文書に、これまでの大統領同様に署名している。トランプの声明は一種の口先外交で、イスラエルを喜ばしておきながら、実際に意味のある行動は差し控えている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story