コラム

ニッポン製造業のマイナス材料は多いが、悲観一色ではない

2017年12月21日(木)18時10分

ソニーのウォークマンなど革新的な製品は世界を驚かせた Hannibal Hanschke-REUTERS

<優等生的経営者の企業は軒並みダメ。しかし家電でも携帯電話でも、部品分野では日本の優位が続く>

日本の経済を支えてきたのは、製造業が稼ぐ富だ。ただこの頃は、家電やパソコンのメーカーが中国や台湾企業に売られ、テレビや携帯電話も韓国のサムスンや米アップルに席巻されている。掃除機まで英ベンチャー企業、ダイソンが幅を利かせる。

三菱や日立の重電部門も独シーメンスや米ゼネラル・エレクトリック(GE)にはるかに後れを取る。日本企業は正直が取りえだったのに、神戸製鋼所などは品質データを改ざんした。

安泰に見えた自動車は、米中の企業から電気自動車という新たなパラダイムを突き付けられ、まき直し。ロボットでは日本が進んでいるどころか、「ペッパー」はもともとフランスのベンチャー企業アルデバランが開発した対話ロボットだ。身体部分は台湾の鴻海精密工業が中国で組み立てている。

日本は今あるものを磨くことにたけているが、新たなシステムを考案できない。英語力も弱いので、金融やコンピューターソフトでは米欧中の後塵を拝する。激化するサイバーテロ対策についても世界を引っ張れない。

いま日本の製造業は曲がり角にあるが、状況は分野や企業ごとに異なる。市場や製造現場を知る努力をせず、従来の枠内でつつがなくやっていくことしかできない優等生的経営者しかいない企業は、軒並み駄目だ。逆にいくらビジョンがあっても、肥大化した企業では有望な商品にヒトとカネを集中できない。

さらに、政府系企業からの発注に依存してきた企業は図体が大きくても世界での人脈を欠く。グローバルな競争では市場ニーズも把握できず、営業力もない。電力会社の注文に依存してきた重電企業や、NTTドコモを向いてしか携帯を開発していなかった家電各社はその典型だろう。

部品分野では優位が続く

戦後の日本企業は皆ブラックだ。残業で生産性を上げるという、実質的に安価な労働力でのし上がった。だが85年のプラザ合意で円レートを倍に押し上げられた上、90年代には中国という巨大な低賃金国が出現した。

その中で、工場はなくとも頭脳で斬新・画期的な商品を設計する米企業は日本などから最良の部品を調達。自社工場を持つ代わりに、中国の工場でこれを組み立てる鴻海など台湾のEMS(電子機器受託製造)企業と組んだから、日本はたまらない。日本は人材の在り方を含め根底からたたき直しを迫られている。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story