コラム

原発事故後、あれだけ大騒ぎしていた韓国...「処理水」問題について「おとなしい」のはなぜか?

2023年09月13日(水)17時48分

野党支持率はむしろダウン

現在の韓国には尹のこのパフォーマンスが可能となる状況もある。それは、尹の支持率の安定である。9月1日の韓国ギャラップの調査では前週より1ポイント減の33%。国民の多くの反対にもかかわらず、日本政府に抗議しない大統領の支持率は大きく下がらない。それは結局、今の韓国の人々がこの問題に大統領や政党の支持を変える重要性を感じていないことを意味している。

実際、このような韓国の雰囲気は各種データにも如実に表れている。「コリア情報リサーチ」の調査によれば、処理水放出後も水産物を口にする、と答えた人は55%、しかも放出開始の前後でほとんど変化していない。ソウル新聞によれば、日本を訪れる韓国人観光客の数は、放出開始後にむしろ大幅に増えている。野党や環境保護団体が仕掛けた大型デモに集まった人々の数は警察発表で1万人。当たり前のように何万という人が集まる韓国のデモを考えれば、決して盛り上がっているとは言えない。最大野党「共に民主党」の支持率は5ポイント低下の27%と、むしろ下げている。

これらのデータが示すことは明らかだ。現在の韓国における処理水放出問題に対する関心は、例えば日本政府が一部半導体関連産品に対して輸出規制を発動した19年とは比べものにならない。一部の反発の一方で、韓国の世論そのものは落ち着いており、それが日本への反感や大規模なボイコットをもたらす状況は存在しない。

であれば、ここは彼らの動きを落ち着いて見守ればいい。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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