コラム

【2+2】米中対立から距離を置く韓国、のめり込む日本

2021年03月22日(月)06時01分

つまりそこにおいて両国は、インドや東南アジア諸国、更にはイギリス等の西欧諸国を含めた、アメリカ主導の対中包囲網を構成する主要な、しかし一つの国家としての位置しか占めなくなる。そしてその様な状況において、アメリカが日本や韓国に対して期待し得る「具体的な役割」は決して多くない。

それは結局こういう事だ。大きくなった韓国は、その動向によってアメリカの対中国戦略に影響を与え、北東アジアのパワーバランスを変え得る存在にまで成長した。しかしながら同時に、米中対立がより複合的で世界規模にまで拡大した結果、韓国が「対中包囲網」において果たし得る、「具体的な役割」は縮小しつつある。結果として、アメリカにとっての韓国は、例えば東シナ海や南シナ海における日本の海上自衛隊に期待されているような、米中対立において「具体的な役割」が与えられない一方で、その「大きさ」故に「対中包囲網」から脱落されては困る存在へと変わりつつある。

だからこそ、アメリカには現状、「具体的な役割」を期待されていない韓国への圧力を、殊更に急ぐ必要は存在しない。「具体的な役割」のない状況で、いたずらに圧力をかけることは、米中対立の中での韓国の立ち位置を不安定化させる効果しか持たないからだ。

そしてそれは韓国、とりわけ文在寅政権にとっては歓迎すべき事態である。何故なら、そもそもアメリカとの同盟関係にある一方で、その経済の多くを中国に依存する韓国にとっての合理的選択は、「米中対立においてどちらか一方を選ぶ」事ではなく、「米中対立そのものから可能な限り距離を置く」事だからである。

「大国から自立した韓国」へ

それは中長期的に韓国にとって、米中双方の影響を極小化し、自らの自立性を高める事でもある。そして何よりもその様な「大国から自立した韓国」の実現は、文在寅をはじめとする韓国の進歩派が長年目指してきたものでもある。80年代に北朝鮮の「主体思想」から影響を受け、反米運動に従事した彼らは、「左派」である以前に「民族主義者」であり、その究極の目的を民族の自立に置いている。だからこそ、彼等にとっては仮にアメリカの影響圏を離脱する事に成功しても、その見返りに中国に従属する事となっては元も子もない。比ゆ的に言うなら彼らが目指しているのは、アメリカとの協力関係を維持しつつも、中国との決定的な対立をも巧みに回避し、何よりも自立的で独自な立場を維持する「小さなインド」とでも言うべき国際的ポジションなのである。

加えて文在寅政権の任期は来年5月まで。今年の秋には、主要政党では予備選挙を始めとする大統領選挙への動きが活発化する。だとすれば、トランプ政権下に「待つ」事を覚えた文在寅には、アメリカの圧力の前に、自らの任期切れを見込んでのらりくらりと時間を稼ぐことも可能である。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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