慰安婦訴訟、国際社会の「最新トレンド」で攻める韓国と、原則論で守る日本
しかしながら、今回、これに対してソウル中央地方裁判所は、「主権免除」は国家が自らの責任を常に逃れる事が出来る様な絶対性を持つものではなく、慰安婦問題の様な「反人道的不法行為」はこの「主権免除」の対象とならない、として自らの管轄権を認める事となった。
併せて同裁判所は、原告側の損害賠償請求権は1965年の日韓請求権協定や2015年の慰安婦合意の対象ではなく、故にその請求権は現在も有効である、という論理を付け加え、日本政府の責任を認める事となったのである。
既に明らかな様に、重要なのは今回の判決が、これまで韓国国内の民事訴訟においては「主権免除」の対象として管轄権から外れた日本政府を、自らの管轄権の範囲にある事を認めた事、それ自体にある。
つまり、この裁判結果が確定すれば、以後、元慰安婦は勿論、元徴用工や元軍人軍属、更には民法上その請求権を相続する事になる遺族達もまた、この判例を根拠に、自らに対して行われた「反人道的不法行為」について、日本政府を直接相手取って韓国国内の裁判所で民事訴訟を行う事が可能になる。
全韓国人が日本を訴える?
そして韓国においては、植民地期の日本の行為は広く「反人道的」であるという認識が教科書的な形で共有されているから、仮にこの教科書的認識が裁判所でもそのまま認められれば、植民地期に政治動員された人々と、その子孫──つまりは今日の韓国に生きる人々の大半──が日本政府を相手取って裁判を起こす可能性すら生まれかねない事になる。当然の事ながらそれは、日韓関係の基礎となる1965年の請求権協定の空文化を意味しており、両国関係に重大な変化を齎す事になる。
この様な今回の判決が与える影響を理解する為には、これまで数多くの慰安婦問題や元徴用工等を巡る裁判があったにも拘わらず、何故にその訴訟範囲が大きく拡大して来なかったかを知る事も重要である。
例えば、2018年に大法院で判決が出た元徴用工等の裁判は、新日本製鉄(現・日本製鉄)や三菱重工を相手に行われたものだった。しかしながら、この日韓関係に巨大な影響を与えたのと同じ形の訴訟が、この時点で全ての元徴用工等において可能であったかと言えばそうではない。何故なら植民地期の被害について企業を相手に訴える為には、まずもって自らの動員先となった企業が現在も存在する事が必要だからである。
また、仮に動員先の企業が現存している場合においても、自らがその企業に動員された証拠を示す必要があり、それもまた植民地支配終焉から75年以上を経た今となっては極めて高いハードルとなっている。
言い換えるなら、だからこそ、大半の元徴用工や慰安婦等にとって、2018年の大法院判決と同様の形で裁判を起こすのは不可能だった。何故なら、彼らの動員先であった企業や慰安所は、遠い昔に破産或いは廃業し、今では存在すらしていないからである。
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