コラム

米政権交代で「慰安婦合意」の再来を恐れる韓国

2020年12月25日(金)21時35分

周知の様に、これまで4次に渡って出されたリチャード・アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイ元国防次官補等によるレポートは、主題とする日米関係に対してのみならず、アメリカの歴代政権、とりわけその政策形成過程において大きな役割を果たす人々の東アジア外交に対する見解を示すものとして、大きな注目を集めて来た。

とりわけ今回のレポートはトランプからバイデンへの政権交代期に出されたものであり、だからこそバイデン新政権の対東アジア政策を占うものになっている。

だからこそ、ここで「日本と韓国の間の緊張」がアメリカの対東アジア政策を妨げるものとして「特に重要」な課題と位置づけられた事は大きな意味を有している。即ち、その事はこのレポートが主たる課題とする中国の脅威等に備える為、アメリカ政府が日韓両国政府に関係改善と、それによる協調姿勢を取る方向で圧力を強めるであろうことを予測させるからである。

そしてここにおいて韓国政府にとっての最大の懸念は、歴史認識問題や対北朝鮮外交、更には中国への姿勢等の全てにおいて異なる見解を持つ日本政府が、この機会を利用してアメリカ政府の支持を取り付け、韓国側がその受け入れを強要される事である。

しかしながら、この様な状況は日本政府にとっても楽観すべきものとは言えない。何故なら、アメリカが求めているのが、日韓両国政府の関係改善と協調である以上、仮に逆に韓国政府がバイデン新政権に対し、北朝鮮への融和政策等への説得に成功すれば、この受け入れを求められるのは、日本側の方になる筈だからである。

就任後6カ月が勝負

当然の事ながら、この様な状況は日韓両国をして、来たるべきワシントンでの競争に向けての警戒を強めさせる事になる。既に述べた様に、新政権の対東アジア政策が固まるまでには今から半年程度、或いはそれ以上の期間が必要である。だからこそ、この「政策形成期の6カ月」の間に、両国がワシントンに対して自らの主張に適った情報を如何に提供し、その説得に成功するかは決定的な重要性を持っている。

2015年の慰安婦合意では豊富なワシントンでの蓄積を持つ日本が韓国を圧倒し、2018年の第一次米朝首脳会談実現に至る過程では、文在寅政権のホワイトハウスへの積極的なアプローチがトランプを動かした。

それでは2021年のワシントンでの両国の競争は、どの様に展開し、それはどの様な結末をもたらすのだろうか。そして新型コロナウイルスの蔓延と支持率の低下に苦しむ日韓両国の政権は、大きなハンディキャップの中、どこまでこの取り組みに力を注ぐ事ができるのか。暫くの間、注視が必要だ。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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